第35話:絶妙な距離感

 

「南澤さん、同業で競合他社と言える企業も、場合によって仕事を回してくれる協業者になるので、付き合い方が難しくて困っています…」―――これは、定期的にコンサルティング指導を行っているクライアント企業の社長の一言でした。

 

競合業者でありながら協力者でもあるこの複雑な関係は、情報共有の範囲をどう決めるか、「常に判断の難しいことで、その適切な距離感を保つのに苦労していました。

 

この企業に限らず、このようなケースは業種・業界によって起こり得ることですが、あまり一般的ではありません。しかし、多くのビジネスシーンでは顧客との適切な距離感が売上に直結するため、普遍的な課題と言えます。

 

営業・販売の現場では、特にこの距離感が重要です。心理的な距離感もありますが、まず頭に浮かぶのは、物理的な距離感です。適度な距離は信頼構築に不可欠ですが、遠すぎる距離感では、信頼関係を構築するのが難しくなります。

 

一方で、近すぎる距離感は相手に不快感を与えてしまうリスクがあります。それは、個々人が持つ「パーソナルスペース」を尊重することが重要だからです。 信頼関係ができる前にそこに踏み込んでしまうと、不快感を与えることになります。そういう意味で、絶妙な距離感を保つことが求められます。

 

そして、そのパーソナルスペースは人それぞれ微妙に異なるので、適切な距離感を見つけるには経験が必要です。

 

私自身、かつての飛び込み営業で数えきれないほどの対面経験を通じて、この距離感の重要性を学びました。 実際の店舗での接客も、顧客との距離感を学ぶ絶好の機会です。ただ、これに気付き、学ぶ姿勢がなければ、残念ながらその機会はただ過ぎ去ってしまいます。

 

さらに、長年の店長経験からは、顧客として不適切な行動をとる人々との対応にも慣れています。通常、威圧的な態度には引いてしまうところですが、前に踏み出し、相手のパーソナルスペースに積極的に入ることで、場を制御することが可能です。

 

これは、相手が自分のパーソナルスペースに入ることに慣れているが、逆の状況には慣れていないためです。相手にとって想定外の距離感を積極的にとることによって、その効果を発揮します。

 

このように営業や販売の現場での物理的な距離感の調整は極めて重要です。さらに、重要なのが「適切な接触方法」です。相手に会わせて、適切なコミュニケーション手段を選ぶことが極めて重要になります。

 

多様なライフスタイルや価値観を持った人が多い現代においては、訪問対面接触が全てではありません。電話、メール、手紙やDM、SNSなど、さまざまなコミュニケーション手段の中から適切な接触手段を選ぶことが重要となります。

 

そして、もう一つ重要なのが、適切な時間・タイミングです。 接触時間と接触頻度と言い換えられます。そのコミュニケーション方法によって異なる適切な接触時間と接触頻度が大切です。

 

顧客によって異なるのですが、基本的に営業・販売の現場では、しつこいとと思われてはいけませんが、「やる気があると思われる熱心さ」が求められます。しつこいと思われてはいけませんが、「売る気がない」と思われてもいけません。

 

男女の仲でも、いつも一緒にいると飽きてしまうので、時間を制限したり、接触頻度を抑えることによって、絶妙な距離感を保っていたりしていると言えます。

 

このように、絶妙な距離感を保つためには、適切な接触時間と適切な接触頻度が欠かせません。時間・タイミングが重要となります。

 

以上のことから、その絶妙な距離感を最適に保つためには、適切な接触方法と適切な時間・タイミングの選択が鍵を握ります。

 

かつて学んだ公式「距離=速さ×時間」を店舗経営コンサルタントの私なりにもじり、ビジネスに応用するなら、以下の公式が成り立ちます。

 

絶妙な距離感=適切な接触方法×適切な時間・タイミング

 

絶妙な距離感は、適切な接触方法と適切な時間・タイミングを掛け合わせたものとなります。絶妙な距離感は、それらの積み重ねの総和であると言えます。 これらを適切に保つことによって、顧客との関係性を強化することが可能となり、持続的な売り上げ向上を実現することができます。

 

このように、顧客との関係性を強化するためには、顧客一人一人に合わせた、絶妙な距離感を保つことが重要となります。そのためには、適切な接触方法と接触時間・タイミングのコミュニケーション活動を戦略的に実行する必要があります。

 

それらを実現するためには、人材育成の仕組みや情報のストック化などが欠かせません。そのための仕組みづくりが不可欠となります。

 

顧客との長期的な関係構築には戦略的な距離感が必要です。貴社では、顧客と絶妙な距離感を保つコミュニケーションを戦略的に行っていますか?顧客との関係性を強化するための仕組みがありますか?

 

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