
「南澤さん、従業員満足と顧客満足、どちらを優先させるのが良いですか?」ーーーこれは、とある卸売業を営む経営者の言葉です。
従業員満足(ES=Employee Satisfaction)と顧客満足(CS=Customer Satisfaction)。近年ではこの二つを対比して議論することが増えました。
もちろん、どちらも欠かすことはできません。しかし「どちらを優先するのか」と問われれば、多くの経営者が迷うのではないでしょうか。
仮に従業員満足を優先させたとします。あえて極端に考えるならば、従業員が快適に働けることばかりに目が向き、顧客対応は二の次になる危険があります。
自社都合を優先してしまえば、顧客の期待を裏切ることにもつながりかねません。実際に、顧客を置き去りにした組織は、やがて市場から支持を失います。
一方で、顧客満足を優先させるとどうなるか。これも極端に振り切ると、従業員に過度な負担がかかり、長時間労働やストレスの増大を招きます。
結果としてメンタル不調や離職が増え、組織が疲弊してしまいます。短期的には顧客が喜んでも、持続性を欠いたやり方では、いずれ顧客にも従業員にも負の影響が及びます。
つまり、どちらか一方だけを優先することは、いずれにしても行き詰まるのです。ここで大切になるのが「起点をどこに置くか」です。
南澤自身は「顧客視点を起点に据える」ことを基本としています。顧客に喜ばれることがなければ、事業は成り立ちません。顧客が離れてしまえば売上は下がり、結果的に従業員満足も低下してしまう。
逆に顧客からの評価や感謝の言葉は、従業員にとって大きなやりがいとなり、働く意欲を高める要素にもなります。このような意欲の高まりは極めて重要です。
心理学者ハーズバーグも「動機づけ衛生理論」の中で、人が働く動機は必ずしも給与や労働条件といった外発的要因だけではなく、「達成感」や「承認」といった内発的要因によって強く左右されると述べています。
顧客からの「ありがとう」という一言は、まさに従業員の内発的動機づけに直結します。外発的要因だけでは限界がありますが、顧客満足から得られる実感は、従業員の心を長く支え続けるのです。
南澤も店長時代、従業員のやる気が伸び悩む中で、あえて「顧客との接点を増やす工夫」を繰り返しました。すると、顧客から感謝の声を直接受け取ったスタッフほど、自然と積極的に動くようになっていったのです。
「もっとお客様に喜ばれるように」と考えることが、本人のモチベーションとなり、同時に店舗全体の活気にもつながっていきました。この経験からも、顧客視点がすべての起点になることを実感しました。
もっとも、顧客ばかりを優先して従業員の負担を無視するわけにはいきません。重要なのは、従業員が安心して顧客に向き合えるような仕組みや文化をつくることです。
過度なストレスを抑え、仲間同士で支え合える職場風土が整えば、顧客第一を掲げても従業員が疲弊することはありません。
古典に「民を貴び、社稷(しゃしょく)を重んず」とあります。人々に喜ばれることこそ国の基盤である、という意味です。
現代の経営に置き換えるならば、「顧客に喜ばれることこそが組織の基盤」ということです。そして、その基盤を支えるのは、顧客に誠実に向き合う従業員の存在です。
顧客と従業員、この二つを切り離して考えるのではなく、循環させる視点が大切なのです。
人手不足の時代、従業員満足の重要性は増しています。休日や賃金といった条件整備はもちろん必要ですが、それだけでは持続的な成長は望めません。
大事なのは、従業員が「お客様のために働けている」という実感を持てることです。その実感があるからこそ、日々の仕事に意味を見いだし、困難に直面しても前を向けるのです。
顧客満足と従業員満足は、どちらを優先するかという二者択一の問題ではなく、互いに循環させるものだと考えます。顧客が喜び、その声が従業員のやりがいを高め、そのやりがいがさらに顧客満足を生み出す。この循環が組織に根づいた時、はじめて持続的な成長が実現します。
では、貴社ではどうでしょうか。顧客視点を起点とした文化が根づいていますか。そして、従業員が誇りを持って顧客に向き合える仕組みは整っていますか。
著:南澤博史
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