
「南澤さん、今年初めて日傘を使ったら、あまりの違いに驚きましたよ…」ーーーこれは、クライアント先の経営者と、コンサルティング後に一杯やっていた時に出た言葉です。
以前から「試してみようかな」という思いはあったそうですが、心のどこかで「男が日傘なんて…」という固定観念が邪魔をし、行動には移せなかったとのこと。
ところが、誕生日にお嬢様から日傘を贈られ、使わないわけにもいかず試してみたところ、その快適さに驚かれたそうです。「もっと早く使っていれば良かった…」と何度も口にしていました。
南澤自身も二年前から日傘を愛用しています。最初は多少の照れもありましたが、一度使えば手放せなくなり、今では真夏の必需品です。この「もっと早く…」という後悔は、強く共感できるところです。
先発者だけが味わえる時間
日傘の存在自体は誰もが知っています。それでも、実際に使い始める時期は人それぞれ。先に使い始めた人からすると「なぜ使わないのだろう?」と不思議に思うほどです。
重要なのは、先に始めた人はその分だけ長くメリットを享受している、という事実です。数年分の利得は、後から真似しても簡単には埋まりません。
日傘であれば快適さの話で済みますが、ビジネスの世界ではそうはいきません。出遅れれば、その分だけ市場を競合に押さえられ、成長のチャンスを逃してしまいます。
特に市場が成長局面にあるときは、初期にシェアを確保できるかどうかで、その後の事業規模や利益構造が大きく変わります。
先発の優位性がもたらす力
先発の最大の強みは、顧客基盤をいち早く固められる点にあります。一度顧客が定着すると、多少の価格差や機能差では他社に移ることはありません。これは「スイッチングコスト」(乗り換えにかかる手間・費用・時間など)が障壁となるためです。
ITプラットフォームやサブスク型サービスでは、この傾向がより顕著です。利用者が増えるほど利便性や価値が高まり、後発は追いつくのが難しくなります。
過去の事例でいえば、家庭用ビデオデッキ市場が好例です。性能面で評価が高かったソニーの「ベータ」よりも、早く普及を進めた「VHS」が最終的に市場を制しました。製品そのものの優劣よりも、普及スピードと顧客囲い込みの早さが勝敗を分けたのです。
さらに、先発は市場ルールをつくる立場にもなれます。価格帯や標準仕様を自社に有利な形で設定でき、その後の展開を優位に進められるのです。
後発にもある強み
もちろん、後発にもチャンスはあります。先発の失敗や顧客の不満点を見極め、それを改善した商品・サービスを提供できる点です。
また、市場や技術の変化を踏まえ、より洗練された形で参入できることもあります。こうした手法は「ミート戦略」と呼ばれます。
ただし、この戦略が機能するのは、市場が固まる前に差別化できた場合に限られます。先発が盤石な顧客基盤を築いた後では、価格競争に巻き込まれる可能性が高まります。
加えて、圧倒的な経営資源を持つ大手が後発で参入してくるケースは別物です。中小企業がこうした市場に挑む場合は、戦略面での慎重な検討が欠かせません。
先発優位を活かす条件
先発だからといって自動的に勝てるわけではありません。真似されれば、優位性は一気に薄れます。肝心なのは、競合が追いついたときにはすでに手遅れ、という状況をつくることです。
そのためには――
・事業初期は戦略的に情報を制限し、競合の動きを遅らせる
・商品・サービスだけでなく、販売方法や顧客体験まで含めた総合的な差別化を行う
・競合が追随する前に、一気に顧客基盤を広げる
単なる機能差は模倣されやすく、長期的な優位性は築けません。過去のコラム「第40話:差別化の方法」でも触れた通り、複数の差別化要素を組み合わせることが重要です。
※「第40話:差別化の方法」はこちら → https://minamisawa-consulting.jp/u2pe
新しいことに挑む文化
日傘を使うかどうかは小さな選択ですが、その背景には「新しいことを試す姿勢」が表れます。変化の激しい市場で生き残るためには、この姿勢が欠かせません。
あえて言えば、「男性だから日傘は差さない」という固定観念は、新しい挑戦を避ける姿勢と似ています。そうした意識が蔓延すれば、組織は徐々に変化に対応できなくなり、やがてチャンスを失います。
貴社には、新しいことに臆せず挑む文化がありますか。男性でも自然に日傘を受け入れられる柔軟性はありますか。
先発で築いた数年分の差は、後発が埋めるには相当な時間と労力が必要です。その第一歩は、日傘のような小さな挑戦から始まることもあります。
市場で勝ち筋をつかむために、まずは軽やかな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
著:南澤博史
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