
「南澤さん、指示したことが守られないんです…。毎日のように同じトラブルが起こってしまって。」ーーーこれは、とある医療系の器具備品を無店舗販売する経営者の一言でした。
忙しい現場で、指示したことが意図した通りに行われない。経営者・管理職、先輩社員…立場は違えど、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。
「何度も言ったのに…」
「こんな簡単なことがなぜ伝わらないのか…」
南澤も店長時代は、正直なところ同じ悩みを何度も抱えました。けれども振り返ってみると、そこには決定的な“落とし穴”があったのです。
それはーーー「言ったつもり」は、相手にとって“言われていない”のと同じ。というシンプルな事実でした。
■「伝えた」と「伝わった」は、まったく別物
ビジネスにおけるコミュニケーションとは、「伝えたいこと」と「伝わったこと」を一致させること に尽きます。
さらに言えば、相手が 意図通りに“行動するかどうか” が本当のゴールです。行動につながらなければ、どれだけ良い言葉でも意味はありません。
だからこそ、口頭だけの指示には大きなリスクがあります。
南澤自身、店長時代は事務所を出て工場からショールームを一周するだけで、
・勤怠承認
・稟議書の決裁
・書類チェック
・急ぎの相談
と、実に多くの依頼が立て続けに飛んできました。
そこに電話が鳴れば接客も入る。
気づけば「さっき頼まれたこと」を忘れてしまうーーーそんな経験は何度もありました。
上司である自分ですら忘れるなら、部下が忘れるのは“当然”とも言えます。つまり、忘れる前提で仕事を組み立てる必要があるのです。
■だからこそ「かたち」に残す
ベタだと思うかもしれません。
しかし、やはり効果が抜群なのは メモに落とすこと です。
細かく書く必要はありません。
メモ紙に一言、付箋に一行。
時間にすればたった数秒ですが、その数秒が仕事の確実性を大きく引き上げます。
南澤が知る限り、この「当たり前」が徹底されている職場は、例外なく業務がうまく回っています。逆に、これができていない現場ほど、“言った言わない”の混乱が増えます。
では、なぜここまで私たちは口頭での伝達に依存してしまうのでしょうか。
人は、自分の感情や意図・言葉の「温度」が相手にも十分伝わっていると過大評価しがちです。心理学では、こうした「自分の内面が実際以上に相手に見抜かれている/理解されていると感じる傾向」を、透明性の錯覚(illusion of transparency)と呼びます。
つまり、「伝えたいこと」を「伝わったこと」に変えるには、かたちにする仕掛けが欠かせない。
これは、社内だけではありません。
顧客に対しても同じです。
■感謝も、紹介依頼も、かたちにするから伝わる
車のような高額商品であればなおさらですが、感謝の気持ちは 言葉だけでは伝わりきらない ことがあります。
南澤は営業時代、「最低3回の感謝を“かたち”として送る」という習慣を徹底していました。店長時代も同様に、スタッフ全員のお客様へハガキを書き続けました。
もちろん業種や商材によって回数は変わりますが、感謝は何度伝えても良い…。むしろ、3回くらいしないと気持ちは届かないと感じていたのです。
紹介依頼も一緒です。
口頭で「紹介をお願いします」と1回伝えただけでは、まず伝わりません。
だからこそ、
・紹介カード
・専用ツール
・フォローの文書
など、視覚的に残る形 が必要です。
トップセールスの共通点は「紹介が多いこと」ですが、彼らは無意識のうちに“かたちにする工夫”を組み込んでいます。普通の営業が同じ成果を出すには、口頭だけでは不十分なのです。
■古典が示す「かたち」の効力
中国の古典『礼記』では、礼とはもともと心に根ざしつつも、姿勢や作法といった「形」としてあらわれ、人の身と心と行いを正す規範であると説かれています。
これは、形式(かたち)の実践が、人の心を整え、行動を正す力を持つという考え方です。古い時代でも、人に伝えるためには“形”が大切にされたということですね。
現代のビジネスでも全く同じです。
・議事録
・メモ
・ハガキ
・紹介カード
・チェックリスト
どれも“形式”ですが、それがあるから行動が整い、成果につながります。
■個人の工夫だけでなく、組織文化として
最後に重要なのは、かたちに残す文化が組織として根づいているかどうか です。個人の意識だけでは限界があります。仕組みとして定着させることが必要です。
・メモを残す
・感謝をかたちにする
・紹介依頼を制度化する
・フォローをテンプレート化する
このような仕組みが整った組織は、“伝わらない”というムダを最小限にし、“行動される”仕事へと変えていきます。かたちにする文化が根づくと、仕事は驚くほど再現性を持ちます。
貴社では、「かたちにする文化」 はどれほど根づいていますか?口頭でのコミュニケーションに頼りすぎていませんか?
伝えたいことが、確実に“伝わったこと”になっていますか?
今一度、職場全体で見直してみてはいかがでしょうか。
著:南澤博史
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