
「南澤さん、同じ説明をしても、AさんとBさんでは反応がまったく違うんですよ…」ーーーこれは、ある販売会社の店長の言葉でした。
お客様への提案でも、部下への指導でも、同じ言葉を使っているのに伝わり方が違う。そんな経験は、きっと誰しも一度はあるのではないでしょうか。
「十人十色」という言葉があります。人にはそれぞれの“色”があるという意味です。考え方も感じ方も十人いれば十通り。まったく同じ状況にいても、何を重視し、どう受け止めるかは人それぞれです。
したがって、相手の“色”を見極め、その色に合わせて言葉を選び、伝え方を変えていくことが、円滑なコミュニケーションの鍵になります。
「合う色」を探す段階から、「合わせる力」へ
南澤が入社したばかりの頃、あるトップセールスの先輩からこう言われました。
「人は十人十色だよ。まずは、自分に合う“色”のお客様を探してごらん。」
新人営業のうちは、まだスキルも経験も足りません。そんな時期に成果を出すには、まず“合う人”を見つけるのが早道なのだと、その言葉の意味を後から理解しました。
たしかに、自分に合うタイプのお客様を探すことは、見極めよりも簡単です。けれども、ある段階を超えると、それだけでは通用しなくなります。
むしろ、「どんな色にも合わせられること」が求められるようになるのです。営業に限らず、対人関係すべてに共通する真理だと感じます。
色を合わせるとは、相手を理解しようとする姿勢そのものです。では、その“色”をどう見極めればいいのでしょうか。
外面の色と内面の色
相手の“色”を見極めるときは、「外面の色」と「内面の色」に分けて考えると整理しやすいでしょう。
外面の色とは、見た目や声のトーン、話し方、表情、しぐさなど、目や耳から入る情報のことです。第一印象で「穏やかそうな人」「エネルギッシュな人」と感じるのも、この外面の色によるものです。
一方、内面の色は、ものの見方や考え方、性格、価値観といった、心の奥にある思考の傾向を指します。こちらは目に見えませんが、行動や判断に強く影響を及ぼします。
外面の色は一見わかりやすいものの、注意が必要です。たとえば、いつも明るく振る舞う人が、実は深い悩みを抱えていることもあります。外面だけで判断してしまうと、本質を見誤ってしまう危険があるのです。
言葉よりも「非言語の色」を読む
ここで思い出したいのが、心理学者アルバート・メラビアンの「メラビアンの法則」です。人が相手から受け取る印象のうち、言葉そのものの影響はわずか7%。声のトーンや話し方などの聴覚情報が38%、表情や姿勢といった視覚情報が55%を占めるとされています。
言葉の内容よりも、むしろ表情や声の調子など“非言語の部分”が、相手に与える影響はずっと大きいのです。
たとえば部下に「大丈夫?」と尋ねると、ほとんどの場合「大丈夫です」と答えます。けれども、その声が小さかったり、目に力がなかったりしたら、それは“大丈夫ではない”サインかもしれません。言葉ではなく、声や表情、姿勢といった“色”を感じ取ることが大切です。
このテーマについては、第41話「いつもと違う部下に気づく重要性」でも詳しく触れています。部下の“いつもと違う”変化に気づく力が、求められるのです。
(→ https://minamisawa-consulting.jp/ccae)
内面の色を読み解く「質問力」と「仮説思考」
内面の色を見極めるためには、相手の言葉の背景にある“意図”を読み取ることが欠かせません。そのとき役立つのが「質問力」と「仮説思考」です。
質問力とは、相手の考えを自然に引き出すための問いかけの技術です。単に「どう思う?」ではなく、「なぜそう感じたのか」「もし○○だったらどうするか」といった質問を重ねることで、相手の思考パターンを浮かび上がらせます。
そして、得られた情報を基に仮説を立て、その人の内面の色を推測していく。南澤自身もコンサルティングの現場では、相手の言葉をそのまま受け取るのではなく、その裏にある価値観や考え方を読み解くよう心がけています。
相手の発言や沈黙の裏に隠れた“意図”を感じ取れるようになると、会話の深さがまったく変わります。これは営業・育成・マネジメント、いずれにも通じる重要なスキルです。
「合わせる」ことで信頼が生まれる
外面と内面の色がある程度わかってきたら、次に大事なのは「合わせること」です。
たとえば、話すテンポがゆっくりな人には自分もテンポを落とし、論理的に話す人にはデータを交えて説明する。相手のペースに寄り添うことで、相手は「この人は自分に合う」と無意識に感じます。心理学ではこれを「ペーシング」と呼びます。
南澤も営業時代、商談の最初の数分は特に“ペース合わせ”に集中していました。相手の声の高さやリズムに自分を合わせるだけで、距離感が驚くほど縮まったものです。人は「理解された」と感じるときに、初めて心を開くのだと思います。
見極める力を組織で育てる
ペーシングは個人の技術であると同時に、組織全体にも通じる考え方です。相手の“色”を見極める力は、一朝一夕で身につくものではありません。日々の観察と、丁寧なコミュニケーションの積み重ねが何よりの訓練です。
そして、この力を個人の経験に頼らず、組織全体で高めていくには、仕組みづくりが欠かせません。面談の場でのフィードバック、ロールプレイング研修、ペーシングを意識した接客訓練など、日常的に“色を感じ取る”場をつくることです。
社員一人ひとりが相手の色を感じ取り、柔軟に対応できるようになれば、社内の雰囲気も自然と柔らかくなります。お客様との関係もより深まり、信頼が連鎖していくでしょう。
人は誰しも、自分の“色”を理解してくれる相手に心を許すものです。その理解は、観察から生まれ、対話で磨かれていきます。
貴社では、スタッフ一人ひとりが相手の“色”を見極め、合わせる力を育てる取り組みができていますか? その仕組みは整っていますか?
著:南澤博史
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