第39話:感謝の伝え方

  

「南澤さん、お礼状はどのタイミングで出すのが一番良いでしょうか?」ーーーこれは、かつてご支援した自動車販売店の経営者の質問でした。

 

お礼とお詫びは早いに越したことはない、というのが一般的な見解です。そして実際に、できるだけ早く行うべきです。

 

特に、お詫びについては、遅れが発生すると、それが解決可能な状況であっても、事態を複雑にしてしまうことがあります。お礼以上にスピードが求められます。

 

とは言え、お礼に関してもスピード感は必要であり、感謝を伝える手段として重要です。後回しにして良い話では決してありません。

 

ビジネスの現場では、紹介を通じて成約に至った場合、紹介元である紹介者に対しての迅速なお礼、感謝の表明が成功の鍵を握ります。このスピード感が、信頼関係の構築や今後のビジネスチャンスへと直接つながるのです。

 

お礼状に話は戻りますが、お礼状は言わば感謝を具体的な「かたち」にする手段です。ただ感謝の言葉を伝えるだけでなく、しっかりと形として残すところに大きな意味があります。

 

特に高価な商品・サービスの提供においては、このような形を残すお礼状は非常に有効であり、顧客との関係性を強化する効果的な方法です。

 

そのため、どのような形で感謝を伝えるかは、戦略的考えて行う必要があります。一人一人の裁量に任せるのではなく、企業としての方針を明確にする必要があります。

 

しかし、高額でない商品・サービスであっても、相手への感謝の気持ちを伝えることは同じく重要です。双方向の感謝があってこそ、長期的な顧客関係を築く基盤となります。

 

ところが、最近ではセルフレジの導入もあり、「ありがとうございました」という声を聞かずにお店を出ることも決して珍しいことではなくなりました。

 

これは、消費者が求めるサービスレベルや価格帯によって、受け入れられる場合とそうでない場合があります。価格との釣り合いが取れていない場合など、大きな違和感を抱くことになります。

 

観光地のとある飲食店に入った時のことですが、ランチでも顧客単価が数千円の価格帯で、決して安くない単価のお店に入った時のことです。

 

何度か利用したことがあるお店だったのですが、店舗に入った時から「いらっしゃいませ」の声がかからず、その時は違和感がありました。

 

食事は従来通りで、価格以上の質と感じました。ところが、会計をしようとしたところ、セルフレジが導入されていて驚きました。人件費を削り、ホールのスタッフを大幅に削減したようです。

 

結局、会計を済ませ店を出ましたが、「ありがとうございました」の一声もなく、大きな違和感を抱き、店を後にすることになりました。

 

ファミリーレストランなどの大手チェーンであれば納得するのですが、それなりの価格でのサービス提供との整合性がとれていないと私は感じました。

 

もちろん、ターゲットとする顧客が、その種の接客を求めていなければそれで良いですが…事実、以前のような賑わいはありませんでした。顧客離れが進んでいる証拠であり、そのままではさらに進むと推測できます。

 

仮に、レシートに「ありがとうございました」という感謝の「かたち」を残しても、前述の「お礼状」とは、まったく異なるものです。

 

この経験からも、「ありがとうございました」と感謝を伝えることが、いかに大事かがわかります。もちろん、商品・サービス、価格などの整合性にもよりますが、店舗側は「感謝の伝え方」を真剣に考えなければならないと、店舗経営コンサルタントの私は考えます。

 

ところで、近年バレンタインデーの「義理チョコ」を廃止する企業が増えています。普段、感謝を言葉で伝えているのであれば、それはそれで良いと考えます。

 

しかし、世の中には普段恥ずかしくて、あらたまって感謝を伝えられない方も非常に多くいらっしゃると推測できます。その中で、感謝をわかりやすい「かたち」で渡す義理チョコは、一定の価値があると考えています。

 

そのような慣習をなくすのは良いのですが、感謝を伝えることを確実に行うという条件付きです。個人的には、実際にそれが難しいことを知っているため、そのような機会はあった方が良いという考えです。感謝を伝えるということは、それなりの手間やコストがかかるものです。

 

商品・サービスを提供する企業にとっては、「言葉」と「かたち」で、どう感謝を伝えるかという問題は、非常に重要です。自社の製品やサービスに合った「感謝の伝え方」を考えて実行しなければなりません。

 

また、感謝を伝えることは顧客との間にとどまらず、社内においても同様です。感謝の文化が根付いた組織では、業務がスムーズに進行し、全体の生産性が向上します。また、上司が部下に感謝を表すことで、相手のモチベーションを高め、より良い結果を引き出すことができます。

 

感謝の伝え方一つで、企業の内外における関係性は大きく変わります。貴社では、自社の製品やサービスに合った「感謝を伝え方」が確立されていますか?社内でも感謝を伝える風土・文化が醸成できていますか?

 

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