第99話:「たまたま運が良かっただけ」と言える人

  

「南澤さん、運も実力のうち、ということについてどうお考えになりますか?」ーーーこれは、あるクライアント企業の経営者と、コンサルティング後に一杯やっていた時に出た言葉です。

 

ビジネスという競争の激しい世界では、「実力も運もなければ成功しない」と語られる場面が少なくありません。

 

確かに、どれだけ実力があっても運に恵まれなければ結果に結びつかないことがありますし、逆に運に恵まれても実力がなければその成功は一時の儚いものに終わります。

 

特に営業の世界では、「運がいい」としか思えないようなことが、なぜか成果を出している人のもとには繰り返し舞い込むのです。まさに、「運も実力のうち」という言葉そのものです。

 

南澤が営業時代のことですが、あるトップセールスは、毎月のように高い実績を出しながらも、必ずこう言っていました。

 

「いや〜、今月はたまたま運が良かっただけですよ」

 

南澤自身、その言葉を聞くたびに、不思議な感覚を抱いたことを今でも覚えています。「たまたま」などというレベルではないほど、毎月のように高い成果を上げ続けていたからです。それでも彼は、決して自分の実力だとは言いませんでした。

 

南澤は、この「運が良かっただけ」という一言に、成果を出し続ける人たちの共通点があると考えています。

 

それは、「慢心しない」という姿勢です。

 

たとえば、営業スタッフの中には、たまたま大型案件が決まると「俺のおかげ」と吹聴し、その後うまくいかなくなるケースがあります。

 

一方で、「運が良かっただけです」と語るスタッフは、その後も顧客に真摯に向き合い、周囲との信頼を築き続けていました。こうした違いは最初は目立ちませんが、3年、5年と経つうちに、決定的な差となって表れます。

 

新人営業が入社2〜3年目で急激に成果を出し、その後売れなくなるという話は、営業の世界では珍しくありません。

 

成功体験を「自分の実力」と捉えた瞬間に、学びが止まり、視野が狭まり、やがて本人が気づかないうちに市場とのズレが生じていくのです…。

 

成果を出し続ける人は、決して自分の力だけで成し得たとは考えません。むしろ、成功を「運が良かった」「おかげさま」と受け止めることによって、次の学びや改善の意欲を維持し続けています。

 

また、「運が良かった」と言える人には、もう一つの共通点があります。

 

それは、環境変化に対する危機感の強さです。

 

世の中は常に変化し続けています。今のやり方が通用しなくなるかもしれない―――明日は今日の延長線上にはないかもしれない。そうした不確実性を前提にした姿勢が、「運が良かっただけ」という言葉の奥に見え隠れしています。

 

つまり、成果を上げながらも「今回はたまたま」と受け止めることで、次の準備を怠らないのです。過去にしがみつかず、未来に備える。そうした継続的な努力こそが、再現性の高い成功を呼び寄せるのです。

 

さらに重要なのは、「感謝の気持ち」です。

 

本物のトップセールスに共通するのは、顧客への感謝、チームへの感謝、組織への感謝を忘れないという姿勢です。

 

成果を支えてくれた人たちへの敬意が、自然と日々の振る舞いや言葉に表れます。このような姿勢が周囲に安心感を与え、信頼を生み、次なる良縁を呼び込むのです。

 

言い換えれば、感謝を基盤にした人間関係の積み重ねこそが、運を引き寄せる構造を生み出しているとも言えます。

 

「運が良かっただけ」と語る人は、自分の努力や成功を声高に誇るのではなく、あくまで周囲の支えと偶然に感謝し、己を律する姿勢を持っています。これは、東洋的な「慎独」の精神にも通じるものです。

 

そして、こうした姿勢は、個人だけでなく組織にも求められます。たとえば、成果を出した人を称賛するのは当然ですが、そのまま過信させてしまっては逆効果です。

 

南澤は、成果を出した人にこそ振り返りと共有を求め、「たまたまではない再現性」を見出すプロセスが必要だと考えます。

 

つまり、謙虚な人材を育てるには、評価制度や日々のコミュニケーションにおいて「気づきを促す仕組み」が必要なのです。

 

単なる表彰や数字の結果ではなく、その裏にあるプロセスや成長、貢献への感謝を示す文化が根づいていれば、組織としての成熟度は確実に高まっていきます。

 

「たまたま運が良かっただけ」と言える人は、決して運に頼っているわけではありません。むしろその言葉の裏側には、謙虚さ、危機意識、感謝、そして学び続ける姿勢が詰まっています。

 

このような思考様式を持つ人材が組織に増えれば、企業全体としての持続的な成長が期待できます。

 

貴社には、成果を出しても決して慢心せず、次の一手を考え続けるスタッフがどれくらい存在していますか?そのような人材が育つ組織文化は、根づいていますか?

著:南澤博史