第32話:営業に向く人、向かない人

 

「南澤さん、営業に向く人と向かない人の違いって何ですかね?」―――これは、あるご支援先の社長からの質問でした。

 

新卒採用を例にとれば、「明るく元気で、はっきりとした受け答えができる人」が、典型的な「営業向き」と見なされます。

 

このような資質は、確かに即戦力としての大きなアドバンテージとなります。要するに、高い「コミュニケーション能力」を持つ人とも言えます。なぜなら、営業は対面でのコミュニケーションが頻繁に求められるため、高いコミュニケーションスキルが不可欠だからです。

 

実際に、そのような能力を持ったスタッフは、新人の時から目立った成績を収めることがよくあります。彼らの熱意は顧客に直接伝わり、時には数年間ベテランを凌ぐ実績を上げることもあります。

 

しかし、より長期的な視点で考えた場合、これらが本当に「営業に向く人」の要件であるかというと、必ずしもそうとは言えません。

 

なぜなら営業職は、傾聴力、問題解決能力、交渉力、プレゼンテーションスキルといった、さまざまな能力やスキルが求められます。 

 

近年では、レジリエンス(回復力)も重要な要素とされていますが、これは「営業力を生み出す継続力」(※当コラム第10話をご参照ください)に欠かせません。営業活動の量を確保・維持するためには、継続力が極めて重要となります。

 

したがって、営業として長く続けられるか、また、継続して成果を出せるかどうかは、まったく別の話になります。

 

「傾聴力」と例にとると、「明るく元気」なこと以上に、習得には相当な時間が必要です。同様に問題解決能力なども、すぐに簡単に身につけられるわけではありません。

 

「傾聴力」に関しては、ロジャースの三原則がありますが、これを本当に理解するには、相当な訓練が必要になります。特に「自己一致」は、単に本を読むだけでは理解できません。

 

一方で、「明るさや元気さ」といった特性は、これらのスキルと比べれば、比較的短期間で改善可能できるものです。私自身も、これらは仕事を通じて後から獲得した特性です。

 

実際に、それらがなくてもこれらの特性を獲得したスタッフをこれまで何人も見てきました。そのため、私は誰でもこれらを習得できると考えています。

 

大切なのは、これらが個々人の性格や個性に合っており、顧客のニーズにしっかりと応えられるかどうかです。

 

船井総研の創業者、船井幸雄氏が提唱する「素直さ」「プラス思考」「勉強好き」という成功の三条件は、「営業に向く人」にも適用できます。これらの条件を実践するためには、具体的なアプローチが重要です。

 

例えば、素直さを通じて学んだ新しい営業テクニックをどう実践に移すか、プラス思考を持って難しい局面をどう乗り越えるか、勉強好きを活かして業界知識や商品知識などを深め、顧客の信頼をどう獲得するかが挙げられます。

 

店舗経営コンサルタントとして、私が「営業に向く人」と見なす最も重要な特性は「謙虚さ」です。「謙虚さ」と言っても色々種類があるのですが、特に、「自分はまだまだだなあ」と思うところが重要であると考えています。

 

つまり、「自分はまだまだ成長の余地がある」と感じる謙虚さが大切だということです。「やればできる」と自己肯定感を高く保ちつつも、決しておごることなく謙虚であることが重要です。

 

もちろん、姿勢が低いという謙虚さが必要であることは言うに及びません。水のように、下に、下に流れていくような謙虚さは、顧客の信頼を得るために必要です。

 

逆に、営業に向かない人は「謙虚さがない人」だと私は考えます。なぜなら、変転する市場と顧客の要求に応えるためには、営業スタッフ個人レベルにおいても「謙虚さ」が欠かせないからです。それがなくても一時的な成果は出せるかもしれませんが、中長期的に成果を出し続けることはできません。

 

結局のところ、営業職に求められるのは、性格や持って生まれた特性以上の、実践的なスキルや、それを磨き上げるための継続的な努力が求められます。そのためには、「謙虚さ」が極めて重要な要素となり、それはまさに「営業に向く人」に必要な資質となります。

 

個人の個性や特性をどのように実践的なスキルに結びつけ、成果につなげるかが重要であり、このプロセスは自己成長の過程であります。内発的動機づけにより成長意欲を持たせることが必要となります。

 

仮に「営業に向かない人」でも、成長意欲を持たせることで、「営業に向く人」と変わる可能性があります。

 

それらを実現するためには、成長を促すマインドセットの構築が重要となります。そして、それを支える自己肯定感を高める組織風土・文化の醸成や仕組みが欠かせません。

 

貴社では、スタッフが「謙虚さ」を持ち続け、成長を続けられる文化が育まれていますか?さらに、組織全体が成長できる環境や仕組みが整っていますか?

 

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