
「南澤さん、ヒアリングはしているのですが、どうも話が長くなってしまって……」―――これは、ある管理職の一言でした。
話を聞いていると、決して怠けているわけではありません。むしろ真面目に、丁寧に、時間をかけて聞いている。それでも商談が長引き、後から「あれも聞いておけばよかった」となる。似たような経験は、多くの方にあるのではないでしょうか。
ここに、大きな落とし穴があります。「時間をかけている=良いヒアリング」ではないということです。
実際に、営業の現場でこんなことがありました。
1台決まったと満面の笑みで戻ってきたスタッフがいました。話を聞くと、商談時間は5時間。一方で、同じ時間帯に、4時間で2台を決めてしまったスタッフもいました。
もちろん、時間の短さだけがすべてではありません。丁寧に向き合うことは大切です。しかし、「長ければ良い」というものではありません。
差が出たのは、ヒアリングの“密度”でした。仮説を持って質問しているか。掘るべきポイントを絞れているか。不要な話に時間を使っていないか。
この違いが、結果に表れたのです。
営業や販売の現場では、経験を積むうちに商談の流れを体得していきます。うまくいくパターンが身につくと、短時間で要点を押さえられるようになります。
ところが、いくら年数を重ねても、話がとっちらかり、必要な論点が抜けるケースは少なくありません。
南澤自身も若い頃は、あちこちに話が飛び、肝心な部分を掘り下げきれないヒアリングをしていました。正直なところ、「きいているつもり」になっていたのです。
その差を分けるのが、論理的思考力です。
少しテクニカルな話をすると、コミュニケーションには「スライドアウト」と「チャンクダウン」という考え方があります。
スライドアウトとは、視点を横に広げる質問です。「他には?」「別の観点では?」といった問いかけがこれにあたります。
一方、チャンクダウンは縦に掘り下げる質問です。「具体的には?」「いつ?」「誰が?」「なぜ?」といった問いです。
ロジカルシンキングでいうツリー構造に当てはめると、横の階層を広げるのがスライドアウト、縦に深めるのがチャンクダウンです。そして横の広がりは、いわゆるMECE(漏れなく、ダブりなく)を目指します。
ヒアリングでヌケ漏れが起きるのは、この横の視点が足りないからです。また、話が浅いまま終わるのは、縦の掘り下げが弱いからです。
さらに重要なのが、「So What?(だから何?)」と「Why So?(なぜそうなる?)」という思考の往復です。この往復運動ができるかどうかで、ヒアリングの質は大きく変わります。
実は、トップセールスの多くはこれを無意識に行っています。必要なところだけを深く掘り、不要な部分は広げすぎない。その“さじ加減”が絶妙です。だから商談時間も無駄に長くなりません。
しかし、ここが厄介なところです。彼らは感覚的にやっているため、言語化されていないことが多い。
だからこそ、育成の現場では「感覚」を「意図」に変える必要があります。
ヒアリングシートを活用する企業も多いでしょう。確かに有効です。視点をあらかじめ用意しておけば、漏れは減ります。
ただし、ここで重要なのが「あたりをつける力」です。
仮説検証がなければ、ヒアリングはただの“しらみつぶし”になってしまいます。ヒアリングでは時間も限られています。何もかも聴くことは現実的ではありません。
仮説がなければ、質問は散らばります。仮説があれば、質問は絞られます。つまり、あたりをつける「仮説検証力」が重要になるのです。これは論理的思考力とセットで磨かれる力です。
ヒアリング力は、単なる会話力ではありません。思考の質が、そのまま質問の質になります。
ただし、ここで誤解してはいけないことがあります。
論理だけでは、人は動きません。
いくら筋の通った説明をしても、相手が「興味を持てない」「心が動かない」状態であれば、商談は前に進みません。ヒアリングにおいても同じです。
論理的に整理された質問であっても、相手に対する興味や関心が感じられなければ、表面的な回答しか返ってきません。
相手に本当に関心を持っているか。その人の背景や事情を理解しようとしているか。この“熱量”が伝わってこそ、深い情報が引き出されます。
論理は、ヒアリングの「骨格」です。しかし、熱量は「血流」です。骨格だけでは動きません。血が通ってこそ、生きたコミュニケーションになります。
南澤が提唱する「全員参加底上げ型機動的店舗経営®」でも、個人技に依存しない育成を重視しています。論理的思考を鍛えながら、同時に“人に向き合う姿勢”も育てていく。その両輪があってこそ、再現性のあるヒアリング力が身につきます。
ヒアリングが長引くのは、決して“話好き”だからではありません。思考の整理ができていないか、あるいは相手への関心が浅いだけかもしれません。
貴社では、論理的思考力とヒアリング力を高めるための仕組みを整えていますか?感覚に任せるのではなく、意図的に鍛える場がありますか?
そして、論理だけでなく、相手に向き合う熱量を育てる環境がありますか?
ヒアリングの質が変われば、商談の質が変わります。
商談の質が変われば、成果の質も変わります。
その第一歩は、「なぜその質問をしているのか」と問い続けること。そして、「この人の力になりたい」と本気で思えるかどうかかもしれません。
著:南澤博史
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