◆第120話:変わり身の早さが勝負を分ける

  

「南澤さん、最近集客力が落ちてきたので、業態を変えてみようと考えているんです……」―――これは、複数店舗を経営する飲食店経営者の一言でした。

 

飲食業界では、こうした悩みは決して珍しくありません。実際、大手飲食チェーンを見ていると、集客力が落ちてきた店舗を別業態へ転換することは日常的に行われています。

 

焼肉店だった場所がイタリアンに変わっていたり、居酒屋がカフェ業態に生まれ変わっていたり。街を歩いていて、ふと気づくことも多いのではないでしょうか。

 

このような“変わり身の早さ”は、ビジネスにおいて極めて重要な要素です。特に、流行の影響を受けやすい業種・業界においては、その重要性がより顕著になります。

 

時には、流行に一気に乗り、短期間で投資を回収し、一定の利益を確保したら撤退する。こうした判断も、実際の現場では普通に行われています。

 

もちろん、これは経営資源に余力がある企業だからこそできる判断でもあります。しかし、「変化を恐れず、素早く動く」という姿勢自体は、規模の大小に関わらず参考になります。

 

この話は、企業経営に限ったものではありません。個人レベルでも、変わり身の早さが求められる場面は数多く存在します。

 

昇進や昇格、役職の変更、あるいは店舗間・部署間の異動。これらはすべて、昨日までの役割と同じでは通用しない局面です。

 

南澤自身が営業担当から店長になった際、その変わり身の早さは、今振り返っても自分でも驚くほどでした。営業として成果を出すことと、店長として店舗全体を動かすことは、まったく別の役割です。昨日までの延長線で考えていては務まりません。

 

店長になった瞬間から、見るべき視点、考える優先順位、使う言葉まで意識的に切り替えました。もし、営業時代の感覚を引きずっていたら、スタッフとの関係も、店舗の数字も、間違いなくうまくいかなかったでしょう。

 

異動の場面でも同じです。前の職場での成功体験が強い人ほど、新しい環境への適応に時間がかかることがあります。変わり身が遅れることで、結果的に成果が出ず、「自分は評価されていない」と感じてしまうケースも少なくありません。

 

ただし、ここで注意しなければならない点があります。

 

それは、「変わり身の早さ=何でも変えればよい」という話ではない、ということです。

 

目先の数字や流行に振り回され、変えてはいけないものまで変えてしまう。これは、経営において非常に危険な判断です。短期的には動いているように見えても、長期的には自社の軸を失ってしまいます。

 

変えていくべきところと、変えてはいけないところ。その見極めこそが重要です。この考え方は、「不易流行」という言葉に集約されます。環境の変化に合わせて変えるべきものは変える。一方で、守るべき本質は守る。このバランスが崩れると、変化は単なる迷走になります。

 

特に注意したいのは、「自社の強み」を勘違いしたまま変わってしまうケースです。経営者が思っている強みと、顧客が感じている強みは、必ずしも一致しません。

 

価格だと思っていたら、実は「安心感」だった。「品質」だと思っていたら、実は「納期」だった。商品だと思っていたら、「人」だった。こうしたズレは、決して珍しいものではありません。顧客から“なぜ選ばれているのか”を正しく理解しないまま変化すると、結果として競争優位性を自ら手放すことになります。

 

変えるべきところは、環境に合わせて大胆に変える。

しかし、顧客視点で見たときの本質的な強みは、あえて変えない。

この判断ができるかどうかが、明暗を分けます。

 

そして、変えると決めたのであれば、もう一つ重要なのがスピードです。同じことをするのであれば、早いか遅いかで結果は大きく変わります。

 

市場のシェアは、先に動いた者が押さえやすい。先行者の優位性は、想像以上に大きな差となって表れます。特に流行に絡む分野では、少し遅れただけで「今さら感」が出てしまい、同じ取り組みでも成果につながらないことが多々あります。

 

変わり身の早さが勝負を分ける――ーこれは決して大げさな話ではありません。

 

企業経営においても、個人のキャリアにおいても、変化をどう捉え、どれだけ素早く切り替えられるかが、中長期的な差を生みます。

 

貴社では、変わり身の早さを発揮できるスピード感のある経営ができているでしょうか。

また、その判断と行動を担える人財を育成する仕組みは整っていますか。

一度、立ち止まって考えてみる価値は、十分にあるはずです。

著:南澤博史

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