
「南澤さん、これまでやっていたことを大きく変えたわけではありませんが、順番を入れ替えただけでものすごく効率的になりました。」ーーーこれは、車関連の部品を製造する企業の経営者の言葉です。
現場での工程改善に取り組む中、部品の組立手順の一部を入れ替えただけで、作業効率が大きく向上し、不良率まで減少したという内容でした。こうした話は決して珍しくありません。
順番を入れ替えることで改善効果が得られるというのは、私自身もこれまで多くの現場で目にしてきたことです。
たとえば営業現場。話す内容そのものを変えずとも、順番を入れ替えるだけで成約率が大きく変わることがあります。
典型的な悪い商談は、いきなり商品の機能説明や価格の話から入るケース。お客様のニーズをまったく聞かずに話し始めれば、「押し売り感」が出てしまい、相手は構えてしまいます。
しかし、ヒアリングを先に行い、相手の困りごとやニーズを把握してから提案すれば、同じ商品説明でも「こちらのことを考えてくれている」という印象になります。
順番を変えることで信頼関係が築け、商談がスムーズに進むようになるのです。この“順番の工夫”は、商談に限らず社内のコミュニケーションにも応用が可能です。
部下から上司への報告で、時系列に沿って話してしまうケースもよくあります。新人や未熟なスタッフほど、「まず何が起きて、それから何があって…」という話し方をしがちです。しかしビジネスでは、結論から話すことが基本です。
たとえば、何かトラブルが発生した場合は、「結論→原因→対応策」の順で伝える。これを徹底するだけで、報告の精度が上がり、上司の判断が早まり、対応のスピードも向上します。報告の順番を変えるだけで、会話時間が短縮され、業務の質が上がるのです。
現場作業でも、順番は非常に重要です。たとえば、私が学生時代にアルバイトをしていたピザ店では、「掃除は上から下へ」という基本が徹底されていました。
これは、高いところを拭いたときに落ちたホコリやごみが床に落ちるため。最初に床を掃除してしまうと、あとでやり直しが発生するからです。
飲食店などでは、開店前の清掃が時間との勝負になることも多く、限られた時間の中で効率よく清掃を終えるには、何から始めて何を最後にするかという順番が非常に重要です。
さらに、お客様目線に立つと、「目に触れる場所からきれいにする」という考え方も加わってきます。入り口のガラスやテーブルの上など、最初に視界に入る場所を優先的に清掃することで、来店時の印象が良くなります。
順番は、現場のオペレーションだけでなく、意思決定や場の空気にも影響します。たとえば会議の場では、誰から話すか、何を最初に説明するかでその後の議論の方向性が大きく変わることがあります。
強い意見を持った人が先に話すことで、他の人が発言しづらくなる場合もあります。あるいは、資料を配るタイミングが遅いことで、議論が浅くなったり、的外れな発言が増えてしまうこともあります。
そんな時は、発言順をローテーションにしたり、資料を事前配布することで解消できます。「いつ・誰が・何を・どの順番で」という基本的な設計を見直すことで、会議そのものの質を上げ、生産性を高めることができるのです。
こうして見てくると、「順番を変える」ことは、削減でも追加でもない、「入れ換え」というシンプルで強力な改善手法であることが分かります。
改善というと、「無駄をなくす」「手間を省く」「コストを減らす」など、マイナスをゼロにするイメージを持たれがちですが、順番を見直すことで「ゼロをプラスに変える」ことも十分に可能です。
ECRSの原則でも、Eliminate(排除)、Combine(結合)に続き、Rearrange(順番の組み替え)は非常に重要な改善視点です。順番を変えるだけで、手戻りを防ぎ、顧客満足度が上がり、業務全体がスムーズになる。そんな事例は業種を問わず無数に存在します。
さて、皆さんの職場ではいかがでしょうか。「順番」によって生まれている非効率が、どこかに潜んでいないでしょうか。「この順番、もしかして無駄が生じているかも?」と、あえて疑ってみることが、改善の第一歩になるかもしれません。
まずは日常業務の流れを一度“順番”という視点で見直してみる。それが、次の改善のヒントになるかもしれません。