第85話:新人が仕事に慣れた時のワナ

  

「南澤さん、新人には早く仕事に慣れて欲しいものですが、昔から「良い慣れ」と「悪い慣れ」があるとはよく言ったものですよね…」ーーーこれは、理美容関連の卸売業の人事部長の一言でした。

 

人事部長の言葉通り、仕事の「慣れ」と一口に言っても、良いものもあれば、悪いものも存在します。よく起きるのは、新しい仕事を始めて、慣れたころに気が緩み、ミスや事故を起こすということです。いわゆる「悪い慣れ」です。

 

私が経験した自動車業界においても、新人が入社し、運転に慣れた頃に車をぶつけるようなことは、これまでさんざん目にしてきました。このようなことはどんな業界・職種でも共通の問題であり、少なからず多くの方が経験しているので、誰もが納得する話ではないでしょうか。

  

一方で、「良い慣れ」というものも存在します。初めはストレスを感じながら一生懸命になんとかこなす状態だったのが、それほど頑張らなくてもこなせている自分に達成感を感じた経験は、誰しもお持ちだと想像がつきます。

 

それは、単に慣れたというよりも、自分の仕事の質が上がったからという理由が多いはずです。仕事の質が上がっていないのであれば、それこそ文字通りの単なる慣れであり、「良い慣れ」ではありません。

 

「良い慣れ」というのは、自らの力量が上がったことによる仕事の効率化とも言い換えられます。結果的に、どちらにしても仕事をこなせているのは確かです。仕事において「慣れ」というのはとても大切なのです。

 

話は戻りますが、新人が仕事に慣れた頃に起こすミスやトラブルといったものは、共通認識の問題点とも言えますが、私が伝えたいところは実はそこではありません。

 

私が問題としているのは、むしろ「良い慣れ」が起きた後の話です。それまで色々工夫したり、頑張ったりした結果、スムーズに仕事がこなせている状況です。

 

本人にとっては、ようやく行き着いた「仕事に慣れた状態」であり、「何か悪いですか?」という気持ちであることは間違いありません。

 

しかしながら、ここで大事なのはその状態を続けるのではなく、次にどうするか、何を考えるかが重要なのです。仮に、そのままの状態でいると何が起きるか、ということです。

 

よく言われる「コンフォートゾーン」と「ストレッチゾーン」の話ですが、ここで言うならコンフォートゾーンは仕事に慣れた状態です。何が問題かと言えば、このコンフォートゾーンにいる間は、人はあまり成長しないのです。つまり、それまで成長していたのが急速に止まってしまうということです。

 

新人スタッフのスランプの原因の多くは、このような状況に起因しています。成長が頭打ちになることによる、モチベーション低下です。

 

では、どうしたら良いでしょうか?

 

それは、自ら進んで「ストレッチゾーン」に入っていくしかありません。もしくは、上司がそのあたりをしっかりと観察し、適切なタイミングで仕事を与える必要があります。

 

「ストレッチゾーン」は今までやったことのない新しい仕事や、今までよりも難しいレベルの高い仕事です。それらを与え続けることによって、スタッフの持続的な成長が見込まれます。そのためには、現状維持ではダメなのです。

 

成長するためには常に挑戦し続けることが大切です。

 

この挑戦を避けてしまうと、自己成長が鈍化し、最終的に職場での役割が限定されてしまいます。これは個人だけでなく、チームや企業にとっても同様です。現状維持では、チームや組織の成長は望めません。

 

そのために、業務改善をしたり、新しいシステムを入れたり、色々なことに取り組む必要があるのです。それをしなければ、成長が止まり、最終的には組織が衰退してしまう可能性が高いのです。

 

しかしながら、そのようなことを理解していないスタッフや古参のスタッフは、今までのやり方を変えたくはありません。なぜなら、コンフォートゾーンは非常に快適だからです。今まで通りで何も問題ないし、困っていないからです。

 

しかしながら、それは非常に危険な発想であることを日頃から意識させる必要があるのです。現状維持を続けた企業は市場から撤退することになります。

 

マーケットという企業間競争の中で、成長を追い求め続けることは、組織にとって必要不可欠です。成長を追い求めることを怠れば、企業は競争に勝てません。そのような重要性を伝えるのは、上司や管理職の責務です。

 

貴社のチームや企業では、個人や組織が成長を続けるための「風土」が醸成されていますか?また、そのための「仕組み」が構築されていますか?

 

成長を続けるためには、個人、チーム、企業全体の意識と行動が重要です。