第84話:小さな約束を守る意味

 

「南澤さん、信用と信頼は大事だとはわかっていますが、具体的にはどのように築くものでしょうか?」
ーーーこれは、とある自動車整備工場の工場長の一言でした。

 

信用と信頼は、商売において極めて重要な要素です。「儲かる」という漢字が「信(信用・信頼)のある者に(利益)が集まる」と読めるように、結果的に信用と信頼を集めたところに利益が集まります。

 

逆に言えば、信用と信頼がなければ、中長期的な発展や成長は望めません。しかし、それらを得るのは一筋縄ではいきません。時間と行動の積み重ねが求められます。

 

よく混同されがちな「信用」と「信頼」ですが、ニュアンスには違いがあります。
信用とは、過去の成果や実績に対する評価。
信頼とは、現在や未来においての姿勢や人柄への期待です。

企業も個人も、顧客や取引先にとっての「信用」と「信頼」の両方を獲得していく必要があります。たとえば、製品やサービスの品質を高めたり、丁寧なアフターサポートを提供したりすることは、「信用」を獲得する手段です。一方で、「信頼」は、日々の関係性や人間性の積み重ねによって築かれていきます。

 

私自身、営業時代から店長時代に至るまで、これらの重要性を何度も痛感してきました。営業担当者として、お客様との約束を守ることは何よりも大切です。その積み重ねが信用や信頼につながるのは、言うまでもありません。

 

もちろん、商談や納車、契約などの「大きな約束」を守ることは、すべての営業担当者が当然のように意識して取り組んでいます。これらを守ることができなければ、そもそも仕事になりません。

 

しかし、私が店長として特に重視していたのは、「小さな約束」を守る姿勢です。

たとえば、
「今はわかりませんが、次回までに調べておきますね」
「資料を後ほどお送りします」
「次回いらっしゃるまでに準備しておきます」といった、何気ない一言。

 

それに対して、「急ぎじゃないので大丈夫ですよ」と返されるケースも多いでしょう。こういった約束は、たとえ守らなくても大きな問題にはならないことがほとんどです。顧客側も「忙しかったのかな」と受け止めてくれる場合が多いものです。

 

しかしながら、ここにこそ差が出るのです。どの営業担当者も「大きな約束」は忘れません。だからこそ差がつかない。しかし「小さな約束」をしっかりと守れる人は、それほど多くない。

つまり、「小さな約束」を守れる人が、顧客からの信頼をより深く勝ち得るのです。これは、ただ几帳面であれという話ではありません。

「自分との小さな約束もきちんと覚えていて、果たしてくれる」ーーーこの印象は、お客様の記憶に強く残ります。そして、このような積み重ねが「この人になら安心して任せられる」という信頼へとつながっていきます。

 

当社が推進する「ストック型営業」では、未来の受注を積み上げていく「先行受注」が鍵となります。

「数年後の約束なんて本当に実現するのか?」という声をいただくこともありますが、それは日々の小さな約束を誠実に守ることで、顧客との関係性が確かな信頼に育っていくからこそ、成り立つ仕組みです。

 

また、これは営業だけに限らず、社内の信頼関係の構築にも言えることです。
上司が部下に対して、「今度、時間を取って話そう」と言ったまま忘れてしまう。
「来週にはフィードバックするよ」と言っておいて、いつの間にかうやむやになる。

こういった「小さな約束の不履行」が積もると、「どうせ言ってもムダ」となり、組織内の信頼はじわじわと崩れていきます。

 

小さな約束をきちんと守る姿勢は、営業においても、組織運営においても、信頼の根っこを支える大切な文化です。だからこそ、小さな約束を軽視しない風土づくりが、企業としての信頼力を底上げするのです。

 

貴社では、小さな約束を守ることの大切さを共有できていますか?また、その姿勢を日常に根づかせるための仕組みや教育は整っているでしょうか?

 

小さな約束の積み重ねが、大きな信頼へとつながる。それこそが、真に「選ばれ続ける会社」「任せたくなる人」への第一歩なのです。