
「南澤先生、なぜ最近の若手スタッフは仕事の指示にいちいち理由を求めるのでしょうか?」―――これはある管理職研修でいただいた質問です。
私自身、会社員時代に管理職を務めていた頃にも同じように感じました。しかし、実際には毎回理由を求めてくるわけではありません。彼らが求めるのは、特に「最初のうちだけ」です。
仕事に対して納得のいく目的や理由という「意味づけ」がなされると、若手社員は驚くほど素直に行動を開始します。裏を返せば、若手が「理由を求める」と感じる上司ほど、実は仕事の「意味づけ」ができていないのです。
私の場合、営業担当だった頃、一つひとつの仕事について、上司から指示を待つのではなく、自分自身で「意味づけ」を行っていました。
例えば、広告のチラシ作業をするときも、「なぜこのチラシを配るのか?」「顧客にどのような価値があるのか?」と考えました。
ただチラシを折って配ったり、DMを発送したりするという単調な作業でも、「これは将来の受注や売上につながる」「この情報が顧客の役に立つはず」「この作業を通じて自分の営業スキルが向上する」と、具体的な意味を持たせていたのです。
将来の売上のため、顧客満足のため、自分自身の成長のため…仕事には必ず背景となる目的があります。チームの目標や組織の方針と結びつけて考えることで、自然と主体的に動けるようになります。
とはいえ、私自身、初めから主体的に動いていたわけではありません。「やらされ感」が強く、モチベーションが上がらない時期もありました。特に、新規開拓を目的とした飛び込み営業など、すぐに結果が見えない業務は苦痛でしかありませんでした。
やらされ感が強いと、仕事に工夫や効率化を求める意欲は湧きません。私が主体的に動けるようになったのは、数多くの経験を通じて「仕事の意味」を自分なりに明確にできたからです。ただ、それには決して短くない年月が必要でした。
しかし、今の時代、私が若手だった頃と比べ、社員が自ら意味づけをできるようになるまで待つ余裕はありません。最初は上司や管理職が率先して意味づけを行い、その重要性を示す必要があります。
ここで重要となるのが、「言語化するスキル」です。仕事の目的や理由を明確に言葉にできなければ、若手社員に納得のいく説明はできません。
「なぜその仕事をやる必要があるのか?」を明確に伝えられるようになれば、若手スタッフはただ素直に動くだけではなく、自ら考え、主体的に動くようになります。上司や管理職は、適切な動機づけができるようになる必要があるのです。
ただし、「意味づけ」を言語化するだけでは不十分です。それを正しく伝える力も求められます。同じ内容でも、伝え方次第で相手の受け止め方はまったく変わります。
例えば、「この仕事をやるように」と指示するのと、「この仕事はお客様の課題を解決し、信頼を得るためにとても大切なんだよ」と説明するのでは、受け手の反応や行動はまったく異なります。
「伝えること」と「伝わったこと」が一致するためには、それなりのコミュニケーションスキルが求められます。伝えたつもりでも伝わっていない場合、原因は受け手だけでなく伝え手にもあります。特に今の時代は、昔よりも一層高いコミュニケーションスキルが求められているのです。
また、「意味づけ」が十分でないと、働きがいや成長の機会が失われるばかりか、最悪の場合は離職にもつながりかねません。ある企業では、仕事の意味を理解できず、やりがいを見出せない若手社員の早期離職が課題となっていました。そこに上司が明確な意味づけを徹底した結果、離職率が大幅に改善した例もあります。
一方、「意味づけ」を適切に行うことで、職場の雰囲気が改善され、チーム全体の業績が向上するという効果もあります。特にリモートワークが増え、社員同士が物理的に離れて働く機会が多い現在では、仕事の意味づけを共有することで、一体感や連帯感を高める効果も期待できます。
皆さんの職場には、こうした仕事の「意味づけ」ができる管理職はいますか?また、そのような管理職を育成する仕組みは整っていますか?
これを機会に、職場での「仕事の意味づけ」の重要性を改めて考えてみてはいかがでしょうか。