
「南澤さん、仕事が楽しくないという部下に対しては、どのように接したらよいでしょうか?」
ーーーこれは、とある企業の管理職研修で、ある管理職の方から出た質問です。部下が仕事に楽しさを見出せず、主体性を発揮できていないというのです。
「人の振り見て我が振り直せ」と言いますが、そもそもこの管理職自身が仕事を楽しんでいるかどうか、という視点も重要です。
そして、問題の本質はそれだけではなく、多くの場合、管理職の役割が果たされていないことに起因します。つまり、部下に対する適切なマインドセットができていないのです。
私自身も、入社当初から仕事を楽しめていたわけではありません。むしろ「やらされ感」が強く、主体性はほとんど発揮できていませんでした。
しかし、ある出来事をきっかけに考え方が変わり、いわばマインドセットが書き換えられました。このプロセスについては、セミナーや研修で詳しくお話しすることが多いです。
この経験を経て、私は仕事をゲームのように楽しめるようになりました。「ゲーム感覚」で仕事をすることで、課題をクリアする楽しさを感じながら成長できるようになったのです。
では、なぜそのような感覚で仕事ができるようになったのか? それにはさまざまな要因がありますが、最も重要なのは、目標や目指すべき姿が明確であることです。
目標の重要性と設定のポイント
目標や目指すべき姿は、モチベーションの源泉になります。これがなければ、楽しむことは難しく、持続的な成長も期待できません。
中には、会社から目標を与えられなくても、自ら主体的に目標を立てるスタッフがいます。こうした人材は、大きく成長する可能性が高いです。私自身も、会社の目標とは別に、独自の目標を立てながら仕事をしていました。
しかし、現実にはそのようなスタッフは少数派です。多くの場合、会社側が目標を与える必要があります。ここで注意すべき点は、目標設定の精度です。
短期の目標は、「頑張れば達成可能なストレッチゾーンの目標」を設定するのが理想です。この匙加減が非常に重要であり、目標が適切で、かつ本人と合意されていることが求められます。
しかし、多くの企業では、「だいたいこのくらいだろう」といった適当な目標設定が行われがちです。その結果、社員のモチベーションが低下してしまいます。納得感のない目標は、モチベーションを上げるどころか、下げる要因になるのです。
ストレッチゾーンの仕事とは、新しいことや、今までよりも高いレベルの業務を指します。こうした仕事に対して「ワクワク感」を持てるかどうかは、動機づけ次第です。
そのため、管理職が部下に仕事を任せる際、どのように動機づけを行うかが非常に重要です。さらに、ルーティン業務においても適切な動機づけができるかどうかが、個人の成長だけでなく、チーム全体の成果にも大きく影響を及ぼします。
中長期的な目標とイノベーションの創出
短期目標に加え、中長期的な目標は、「現在の延長線上にない目標」を立てるのが効果的です。これは、従来のやり方では達成できないため、新たな発想や工夫を生み出す必要があるからです。
特に、店舗経営コンサルタントとして事業計画書の作成支援をする際には、経営者にこの考え方を伝えています。こうした目標設定によって、会社の中でイノベーションが生まれる可能性が高まります。現在の延長線上の仕事では、イノベーションは起こりにくいのです。
また、長期目標だけではモチベーションを維持し続けるのは困難です。「短期目標を細かく設定し、達成感を積み重ねること」も、モチベーションを維持するために欠かせません。
仕事を楽しめない人への対応
そうは言っても、仕事を楽しめない人がいるのは事実です。しかし、仮に本音では楽しくないとしても、「楽しくない」と態度に出すことは、何のプラスにもなりません。周囲に悪影響を及ぼし、チームのパフォーマンス低下を招いてしまいます。
興味深いことに、人は「調子が悪い時に、元気に振る舞い続けると、本当に元気になる」ことがあります。同じように、仕事を楽しむように振る舞い続けていると、本当に楽しくなってくるものです。
結果として、「仕事を楽しむ人」になるのです。こうした考え方を持ち、上司や管理職が適切に指導することが、チーム全体のパフォーマンス向上につながります。
「仕事を楽しむ人」が生み出す好循環
仕事を楽しめる人は、楽しいからこそ前向きに取り組み、工夫し、成果を出すという好循環を生み出します。
一方で、「やらされ感」が強い人は、仕事が楽しくないために主体性を欠き、工夫をしないため、効率的に仕事を進めることが難しくなります。それだけでなく、組織の業務改善にも消極的になりがちです。変化を嫌い、自分のやり方を変えない方が楽だからです。
環境を整えることが「仕事を楽しむ人」を育てる
こうした問題を解決するには、「仕事を楽しめる環境」を作ることが不可欠です。仕事の楽しさは、個人の特性に委ねるものではなく、仕組みとして整備するべきものなのです。
そのためには、管理職が適切に動機づけを行い、「仕事を楽しむ人」を育てる仕組みを作ることが大切です。
貴社では、「仕事を楽しむ人」を育てるための仕組み、動機づけができる管理職の育成ができていますか?