第59話:店長の役割とは?

 

「南澤さん、店長の役割については、どのように考えていますか?」ーーーこれは、セミナーにご参加された自動車販売店の経営者の一言でした。

 

店長の役割と一口に言っても、その意味は多岐に渡ります。店舗経営者としての役割、そして組織内での管理職としての役割。それぞれ少しずつ異なりますが、根底にある本質は同じだと私は考えています。

 

例えば、管理職としての役割で重要なのは、会社の方針を自分のチームに置き換えてわかりやすく伝えるということです。このあたりについては、ある意味では、管理職の存在価値とも言えます。

 

しかしながら、本質的な部分は一緒と私自身は考えています。私が、店長時代に役割として認識していたのは主に4つの役割です。この4つを店舗が変わるたびにスタッフに伝えていました。

 

  1. 成果を出す
  2. 人材育成支援
  3. 働きやすい職場環境をつくる
  4. 新しい価値を提供する

 

以上の4つの役割を掲げていました。管理職研修では、このような内容をわかりやすく店長や管理職の方々にお伝えしています。

 

1については、言うまでもなく売上や利益の向上などです。もちろん、顧客満足度の向上など、目に見えにくい成果も含まれます。

 

例えば、単に売上を向上させるだけでなく、スタッフが目標に向かって働くモチベーションを保つための方法を考えることや、顧客満足度を高めるための取り組みを導入することも「成果を出す」ことに繋がります。成果を出すことが必須であることは、間違いありません。

 

2については、“支援”としていることがポイントです。なぜなら、本人が成長したいと思わない限り、育成は難しいというのが結論だからです。

 

私は、人材育成と言うのはなんだか偉そうだなと思っていたので、成長したいと動機づけをすること、それを“支援するのが店長の役割”であるとしていました。

 

店長として最も重要な役割の一つが、スタッフの成長を“支援する”ことです。成長を促すためには、ただ教えるのではなく、スタッフ自身が成長したいと感じられるような環境や機会を提供することが大切です。

 

私の場合、スタッフに挑戦の機会を与え、成功体験を積ませることで、彼らが自ら成長したいと感じるように動機づけていました。

 

3については、ただ成果を出すだけで良いわけではなく、持続的な成長を実現するために、働きやすい環境をつくることを掲げていました。

 

環境整備によるきれいな職場、言いたいことがお互いに言える風通しの良い環境、失敗を許容する文化の醸成などが当たります。

 

4については、顧客、自社、ステークホルダーなどに対して、新しい価値を提供することを目指すというものです。言われたことだけをやるのではなく、主体的に課題に取り組むことなどを意味します。

 

もちろん、これら4つ以外の他にも細かく分類するならば、ビジョンや目標の共有、日々の声かけなどのコミュニケーションによる関係構築、メンタルヘルスケアなど、多くの役割があります。

 

これらの役割を一つ一つこなしていかなければなりません。全てを確実に実行できるようになるためには、かなりの時間を要することは想像がつくでしょう。

 

私自身も、自分が思い描いていた理想の店長、理想の上司にいきなりなったわけではありません。それに向けて一歩一歩着実に近づいていっただけです。

 

研修などで、店長や管理職の方々にお伝えすることは、いきなりなることはできませんが、「明日から理想の店長や上司を演じることはできる」ということです。

 

俳優、アクターのように、誰でも演じることはできるのです。これは、似ているようでまるで非なるものです。

 

しかしながら、なんとか頑張って演じているうちに、不思議と理想の状態に段々と近づいていくものなのです。

 

理想の店長像をいきなり完璧に実現することは難しいかもしれませんが、まずは「その役を演じる」ことで、少しずつ理想に近づけるのです。

 

たとえば、リーダーシップを持ってチームを引っ張ることが苦手な店長でも、リーダーとしての役割を演じ続けることで、自然と行動が変わり、結果的にリーダーシップを発揮できるようになります。演じることが新たな視点を生み出し、それが実際の行動にも反映されるのです。

 

これは、店長や管理職だけではありません。これまで一番若手だったスタッフが先輩になる時も然り、主任や係長になる時なども同じです。

 

つまり、良き上司、先輩を演じるようにすれば良いということです。それが、結果的に本人の成長につながっていきます。

 

このようなことが理解できないと、地位や立場の変化というストレスによってメンタル不調にもなりやすくなります。実際に、地位や立場の変化によるストレスは、ストレス原因の上位にあげられます。

 

いきなり明日から、理想の店長、管理職、上司、先輩になることはできませんが、誰でも演じることはできるのです。

 

冒頭の話に戻りますが、店長や管理職の役割は、非常に多岐にわたります。それらを正しく認識している人は意外にも少ないというのが私の肌感覚です。

 

貴社では、店長や管理職がスタッフの成長を支援し、働きやすい環境を作り出すために、どのような具体的な仕組みを導入していますか?もしまだ導入されていない部分があれば、今こそ考える良い機会かもしれません。