第41話:いつもと違う部下に気づく重要性

 

「南澤さん、非常に真面目で優秀な社員がいるのですが、最近の様子がおかしいんです。どうしたものかと困っています…」ーーーこれは、ある製造業で金属加工を行っている経営者から出た言葉でした。

 

彼は通常、仕事でのミスも少なく、現場でのコミュニケーションも円滑で評価されている社員です。しかし、最近になって、彼の行動に些細ながらも明らかな変化が見られ始めたとのことです。

 

経営者はこの社員の変化に気づき、ただ放置するのではなく、積極的に対話を試みました。その結果、この社員が私生活で大きな問題を抱えており、それが仕事にも影響を与えていることが明らかになりました。具体的には、家庭内での重圧が原因で、精神的なバランスを崩していたのです。

 

その後、この経営者はその社員と対話を重ね適切に対処したことで、結果的にメンタル不調による長期離脱等を防ぐことができました。仮に、異変に気づかずに放置していたら優秀な社員を失っていたかもしれません。

 

プライベートで込み入った問題を経営者と共有し解決できたのは、彼との良好な関係があったからです。経営者と社員との間に築かれていた信頼関係が、この困難な時期に社員をサポートする基盤となりました。仮に、経営者が良好な関係を築いていなければ、このような適切な対処はできなかったはずです。

 

この事例から、私たちは非常に重要な教訓を学ぶことができます。それは、職場における日常のコミュニケーションと、信頼に基づく人間関係の構築がいかに大切かということです。

 

特に、管理職やリーダーにとっては、部下の小さな変化にも敏感であることが求められます。これにより、問題が深刻化する前に適切な対策を講じることが可能となります。

 

近年、メンタルヘルスの問題は増加傾向にあり、「新型うつ」など対処が難しい症例も増えています。これらは、人間関係や仕事のストレス、顧客とのトラブルなど職場の問題から発生することが一般的です。上司、同僚、部下との人間関係、仕事そのものや顧客とのトラブルなどが原因とされています。

 

そして、これらの職場の問題の場合、上司や店長は、身近で仕事ぶりを見ているため比較的容易に異変に気づくことができると言えます。

 

顧客とのやり取りなどはその際たる例です。困っている時にアドバイスや手を差し伸ばすことで問題が大きくなる前に解決が可能です。そのような問題から発生するメンタル不調に関しては、多くは未然に防ぐことができます。

 

しかしながら、メンタル不調を引き起こす原因は職場だけが原因ではありません。やっかいなことに、職場以外の家庭の問題が原因による場合も実際には多く存在するのです。

 

そのような場合、職場の問題よりも事態は複雑であり、初期の段階では容易に気づくことができません。そして、気づいた時には手遅れとなるケースも多いのです。

 

どちらにしても、早い段階できづくことが重要であり、それができなければメンタル不調による長期の離脱等が起こりやすくなります。

 

実際に、未然にさまざまな問題を防ぐことができずに、問題の後処理ばかりに追われている職場では、メンタル不調などが多く発生する傾向があります。

 

日常的に発生するさまざまな問題を、初期の段階で芽を摘んで解決することがここでは極めて重要となります。部下が一人で問題を抱えているのに気づく必要があります。

 

また、問題の原因が職場の外にある場合、その解決はさらに複雑になります。家庭の問題や個人的な悩みは、一般には職場で話しにくい内容であり、従業員がこれらを隠してしまうことが多いです。これが未発見のままだと、従業員は無力感に苛まれ、場合によっては職場を離れてしまうことさえあります。

 

しかし、上司や店長が全ての部下の異変に初期段階で気づくことは困難ですが、部下への関心を持続させることで、多くの問題を未然に防ぐことが可能です。

 

そのためには、個人的な感情を抜きにして全ての部下と公平にコミュニケーションを取ることが重要です。これにより、上司や店長はプライベートに関する情報も得られるようになります。本人だけでなく、周りのスタッフが得た情報も集まりやすくなります。

 

私自身も、他のスタッフから本人に関するプライベートの問題を事前に聞いており、そのおかげで早期に対応できた経験が何度もあります。このような情報収集は、日々の活発なコミュニケーションと相互の信頼関係があって初めて可能です。信用・信頼の「ストック化」が重要となります。

 

部下の異変と一口に言ってもさまざまです。人それぞれに状況も異なります。しかしながら、多くは、食事や睡眠の状況、表情、口数等から異変に気づくことができます。

 

そもそも、異変に気づくことができるためには、普段の状態を把握しておく必要があります。そのための観察力を管理者は磨く必要があります。

 

このように、部下の異変に気づくことができる管理者を育成するには一定の時間がかかります。さまざまなスキルと経験が必要となりますが、管理者育成は中長期的に見て極めて重要です。

 

こうした状況を防ぐためには、上司がただ仕事のパフォーマンスだけでなく、部下の人間としての側面にも目を向け、気づかいを持って接することが不可欠です。これには、部下との面談を定期的に行う、オープンなコミュニケーションの場を設けるなど、多岐にわたるアプローチが考えられます。 

 

最終的には、部下の異変に気づくことは、単なる管理職のスキルを超えた、組織文化の一部として根付くべきものです。管理者だけでなく、同僚間でもお互いの変化に注意を払い、支え合う文化が育てられれば、職場はより強固な組織・チームとなり得ます。

 

貴社では、このような文化が根付いていますか?部下の異変に気づく管理者を育成するための仕組みがありますか?

 

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