第30話:真のロイヤルユーザー

 

「南澤さん、優良顧客だと思っていたら、突然他社に乗り換えられてしまいました…」これは、ある自動車メーカーの販売会社で耳にした話です。店長時代を振り返れば、同様の話を幾度となく耳にしてきました。

 

「優良顧客」とも呼ばれる、「ロイヤルカスタマー」や「ロイヤルユーザー」の定義は企業によって異なります。

 

日本語では「常連客」ですが、ここでは、「ロイヤルユーザー」を、自社の商品やサービスを継続的に利用し、かつ高いロイヤルティを持つトップ層のユーザーと定義します。

 

ロイヤルユーザーは、単に購買額が高いだけではありません。高頻度での購入、オピニオンリーダーとして新規顧客を紹介するなど、企業にとって多大なメリットをもたらします。最近ではSNSなどで好意的な情報を発信してくれることも重要です。

 

また、商品やサービスに対する強い思い入れや愛着を持ち、他社からのオファーを容易には受け入れません。

 

特に重要な点は、「真のロイヤルユーザー」は、製品・サービスに不満がある場合でも、突然他社への切り替えを選択しないということです。不満や改善要望をフィードバックすることで、製品・サービスの改善に貢献する意欲を持ちます。

 

実際に、「この部分を改善して欲しい」など、具体的にフィードバックを受け、実際に改善することで、お客様から喜ばれ、関係性がより強固なものになります。

 

一方で、これらの要望に応えられない時、それがどうしても叶わない場合、顧客が他社に乗り換えることもありますが、それは決して突然ではありません。

 

また、叶えられない要望があった場合でも、顧客とのコミュニケーションを維持し、理解を求めることで、関係を持続させることもできます。このような対応が、真のロイヤルユーザーを維持する鍵です。

 

冒頭の「突然他社に乗り換えられてしまった」という事例は、企業側の勝手な思い込みであり、顧客にとっての思い入れや愛着が欠如していたと言えます。真のロイヤルユーザーとは異なり、単に製品・サービスを利用していただけの「偽りのロイヤルユーザー」も存在します。

 

自動車業界の例で言えば、新車購入時に選択される「整備パック」が最も好例です。顧客の忠誠心とその実際の行動の間の微妙な違いを示す典型例です。

 

このパックに加入した顧客は、確かに定期的にサービスを利用するかもしれませんが、それが必ずしも店舗やブランドへの深い愛着から来るわけではありません。多くの場合、利便性や慣習がその行動を左右しているのです。

 

つまり、顧客が一見忠実に見えても、その忠誠心が実際には表面的で薄い場合があることを示しています。

 

同様に、飲食業界でも見られる現象で、顧客が「近所にあるから」という理由だけで特定の飲食店を利用しているケースがあります。しかし、エリア内に新しい、魅力的なオプションが登場した瞬間、顧客の選択はあっさりと変わってしまうことがあります。

 

これらの行動パターンから、「真のロイヤルユーザー」とは、単なるリピーター以上の存在であり、他社にそう簡単には切り替えることがない顧客を「真のロイヤルユーザー」として定義できます。

 

そうした顧客は、一時的な利便性ではなく、ブランドの価値を深く共鳴し、周囲に積極的に伝える人々です。彼らはブランドとの強い感情的結びつきを持ち、その関係を価値あるものと見なしています。

 

私が営業を行っていた時代に学んだ重要な教訓の一つは、「真のロイヤルユーザー」と「一般的なロイヤルユーザー」を明確に区別することでした。

 

初めて製品を購入してくれる顧客も確かに重要ですが、再購入を選んでくれる顧客、特に乗り換えの際に再び私たちを選んでくれる顧客に、真の価値があると考えていました。これらの顧客は、私たちの製品やサービスに対する高い満足度と深い信頼の象徴です。

 

乗り換えの際に2台目を購入してくれた顧客は、私にとって「真のロイヤルユーザー」の典型でした。彼らは一般的に、大きな問題が生じない限り、他社に切り替えることはありません。

 

これらの顧客は特別な配慮を受けるに値し、特に大切に扱うべき存在です。しかし実際のところは、彼らを維持するために必要な労力や時間は、彼らが既に自社に対して高い満足度と信頼を寄せているため、思ったよりも少なくて済むことが多いのです。

 

一方で、初購入後にまだ再購入していない顧客に対しては、彼らを「真のロイヤルユーザー」へと育てるために、より多くの労力と時間を投資する必要があります。彼らには、個別のアプローチを通じて継続的に価値を提供し、関係を深めることが求められます。

 

このプロセスにおいて、私は戦略的な視点での取り組みに注力しました。顧客一人ひとりとの接触回数を増やし、彼らのニーズや期待に応えるために、質の高い時間を割いてきました。

 

その結果、真のロイヤルユーザーを増やすという目標達成に向けて、顧客満足度を高め、強い顧客基盤を築くことができました。

 

このような取り組みを持続的に行うためには、戦略的に考え、顧客中心のサービスを提供できるスタッフの育成が欠かせません。これは、組織全体の文化として、顧客との長期的な関係構築を最優先する姿勢を根付かせることを意味します。

 

飲食業界のように、競争が激しい市場では、常に自社のメニューやサービスを改善し続け、顧客に選ばれ続けるための独自性を提供することが非常に重要です。顧客に常に新しい魅力を提供することで、彼らの忠誠心を確かなものに変えることができます。

 

また、顧客満足度調査を定期的に行い、その結果を製品開発やサービスの質の向上に役立てることは、顧客との信頼関係を築く上で不可欠です。満足度の数値に一喜一憂するのではなく、顧客の具体的な要望や提案に耳を傾け、それを実際の改善につなげることが重要であると、店舗経営コンサルタントの私は考えます。

 

顧客からの提案を積極的に取り入れることができれば、顧客満足度は大きく向上し、彼らが真のロイヤルユーザーへと成長する可能性が格段に高まります。顧客が自分たちの意見や提案が真に価値を持ち、影響を与えていると感じることで、ブランドへの愛着を深めることができます。

 

ロイヤルユーザーを真のロイヤルユーザーに育成し、彼らに最高の満足を提供するためには、戦略的な施策が極めて重要です。具体的には、限定オファーや招待イベントの開催などによる価値ある魅力的な顧客体験を提供することで、彼らの購買行動を引き続き支え、長期的なロイヤルティを構築できます。

 

顧客の期待を常に超える価値を提供し続けることが、真のロイヤルユーザーの育成と維持において最も効果的なアプローチです。この目標を達成するためには、企業文化が根本から顧客中心のものである必要があります。

 

全社員が顧客満足度とロイヤルティの向上を目指し、その精神を日々の業務に反映させることで、顧客とのすべての接点で一貫した高品質な体験を提供できます。

 

当社が推進する「ストック型営業」は、顧客に持続的な価値を提供し、同時に労力や手間を最小限に抑える戦略です。このアプローチにより、長期的な顧客関係の構築と維持が可能となります。

 

貴社は、顧客の中から真のロイヤルユーザーをどのように見分け、彼らのロイヤルティをどのように高めていますか?また、そうしたロイヤルユーザーを戦略的に育成するための具体的な仕組みは整っていますか?