◆第126話:交渉がうまくいかない理由 ~うまくいくかは準備で8割が決まる~

   

「南澤さん、トラブル解決の交渉が長引いてしまっていて、正直困っています……」―――これは、とある自動車販売店の店長から聞いた一言です。

  

小さな問題であれば、その場で話がまとまることもあります。しかし、自動車販売の現場では、金額が大きく、感情も絡みやすいトラブルが起こるのが現実です。一度こじれてしまうと、想像以上に時間と労力を要するケースも少なくありません。

 

南澤自身も、店長時代にトラブル対応の交渉が長期化してしまった経験があります。振り返ってみると、「もっと早く、違う準備ができていれば」と思う場面がいくつもありました。

 

交渉において最も重要なのは、やはり初期対応です。

ここで判断を誤ると、問題は一気に深刻化していきます。

 

まず大切なのは、相手の話をよく聴くこと。

これはトラブル対応に限らず、交渉全般の基本です。

 

相手は何を望んでいるのか。

何に不満を感じているのか。

どこに重きを置いているのか。

 

表に出ている言葉だけでなく、その背景や立場、感情まで含めて理解しようとする姿勢が欠かせません。この段階でどれだけ情報を引き出せるかによって、その後の交渉の難易度は大きく変わります。

 

逆に、こちらの都合や立場ばかりを説明してしまうと、交渉はほぼ確実にうまくいきません。正論を述べているつもりでも、相手が「分かってもらえていない」と感じた瞬間、話は前に進まなくなります。

 

実はこの時点で、交渉の成否はかなり決まっています。

相手に信頼されない前提で、双方が納得できる形に落ち着くことは難しいからです。

 

だからこそ、既存顧客との日々の関係構築が重要になります。

 

普段から信頼関係が積み重なっていれば、トラブルが起きたときでも、話し合いの土台がすでにできています。

 

これはトラブル対応だけの話ではありません。

商談や価格交渉など、あらゆる交渉に共通する話です。

 

そうです。交渉は、実際の場に入る前から始まっているのです。

そして、もう一つ欠かせないのが「事前準備」です。

 

交渉が長引くケースの多くは、この準備が不足しています。

準備とは、単に資料を揃えることではありません。

 

どこまでなら譲歩できるのか。

どこは譲れないのか。

 

相手がどのような条件を求めてくる可能性があるのか。

これらを事前にシミュレーションしておくことです。

 

加えて重要なのが、業界知識や一般的な知識です。

自社の商品やサービスだけでなく、業界の慣行、相場感、他社動向などを理解しているかどうか。ここが、交渉時の説得力を大きく左右します。

 

知識があると、不思議と自信が生まれます。

自信がある人の言葉には余裕があり、その余裕は相手にも自然と伝わります。

 

結果として、交渉は落ち着いた雰囲気で進みやすくなります。

逆に、知識が曖昧なまま交渉に臨むと、言葉に迷いが生じ、相手のペースに引きずられがちになります。

 

気づけば「勝ったはずなのに、次が来ない交渉」になってしまう。

このようなケースは、決して珍しくありません。

 

一時的には条件面で有利に見えても、相手の納得感がなければ、その交渉は長続きしないのです。

ただし、こうした知識は一日で身につくものではありません。

 

だからこそ重要になるのが、「学習する組織」「学習するチーム」という考え方です。

個人の努力に任せるのではなく、日々の業務の中で学びが蓄積される仕組みがあるかどうか。

 

成功事例や失敗事例を共有し、知識や経験を組織の財産として残しているかどうか。

この積み重ねが、交渉力の底上げにつながります。

 

もちろん、知識だけで交渉がうまくいくわけではありません。

相手の感情に寄り添う姿勢が重要であることは、言うまでもありません。

 

どれだけ正しいことを言っていても、相手の気持ちを無視してしまえば、交渉は前に進みません。

知識と共感、この両輪があって初めて、交渉は成立します。

 

さらに、社内で判断が必要な事項については、事前に了解を得ておくことも重要です。

その場で判断できない状態は、交渉を長引かせる大きな要因になります。

 

南澤も店長時代、大きなトラブル対応に臨む際は、必ず妥協点を想定し、社内の合意を得た上で交渉に臨んでいました。それだけで、交渉のスピードと質は大きく変わります。

 

そして最後に。

交渉は決して、Win-Loseを目指すものではありません。

短期的に「勝った」と感じる交渉ほど、振り返ると関係が途切れてしまうケースがあります。

 

大切なのは、その交渉が次につながるかどうか。

今後も安心して話ができる関係を維持できるかどうかです。

そのためには、個人の力量だけでなく、学び続ける組織としての仕組みが不可欠です。

 

貴社では、交渉を有利に進めるための準備が、日常業務の中に組み込まれているでしょうか。

そして、その土台となる「学習する組織づくり」は、できていますか?

著:南澤博史

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