
「南澤さん、5年前にEVに流れると思って舵を切りましたが、本当に良かったのでしょうか…」―――これは、地方都市で金属加工工場を経営する社長から聞いた言葉です。
コロナ禍、カーボンニュートラル、EV化。当時はこれらの言葉が合言葉のように使われ、政府の補助金政策も追い風となって、多くの製造業がEV関連へと舵を切りました。この会社も例外ではなく、EV向け部品を生産するための大型設備投資を決断しました。
しかし、その後の需要は当初の想定ほど伸びず、ここ1~2年は世界的にもEV化の流れが急減速しています。
結果だけを見ると、「判断を誤ったのではないか」と感じてしまうのも無理はありません。
ただ、南澤はこの社長にこうお伝えしました。「今となって良かったか悪かったかを論じても、あまり意味はありません」と。重要なのは、当時の前提条件において、その判断が合理的だったかどうかです。
結果が良ければ正解、悪ければ失敗――ーそう単純な話ではありません。たまたま上手くいった判断には再現性がなく、次に活かすことができないからです。
EVに限らず、DX、サブスクリプション、生成AI。言葉だけが先行し、「なぜそれをやるのか」が十分に整理されないまま舵を切ってしまうケースは、残念ながら少なくありません。これは典型的な「手段の目的化」です。
ここで、あえてはっきり言っておきたいことがあります。時流を読む、時流に乗る=流行に乗る。正直、ここを勘違いしている会社は多いです。
そもそも、時流に乗ることは、流行に飛びつくことではありません。最先端を走ることでもありません。ポイントは、自社がどこで強みを発揮し、価値を提供するかです。つまり、「追い風のどこに立つか」です。
自社の強みは何か。どの工程で価値を発揮できるのか。外部環境の変化を、自社のビジネスにどう適応させるのか。この整理がないまま流行に乗れば、環境が変わった瞬間に立ち位置を失います。
冒頭のケースでは、EVそのものが悪いわけではありません。EV自体が当時もてはやされたほど伸びないと予想できれば一番良いのですが、仮に需要が想定より伸びなくても、競合と比較して明確な強みを発揮できていれば、事業として成立させることは可能なのです。
一方で、単に流行に乗っただけでは、需要が鈍化した瞬間に一気に苦しくなります。それは「時流を読んだ」とは言えません。
時流を読むとは、未来を正確に当てることではありません。前提条件が変わることを前提に、適応し続けることです。
マクロの流れを掴むことは、もちろん重要です。政治、経済、社会、テクノロジー。人口動態、エネルギー政策、為替、業界構造の変化…。大局を掴むことで経営の判断を大きく助けることになります。
しかしながら、今は情報自体は簡単に手に入りますが、その分ノイズも多く、本質を見極める力が問われます。一過性のブームなのか、構造的な変化なのか。この見極めには、歴史に学ぶ視点も有効でしょう。
一方で、マクロのリスクは多くの場合が避けられません。だからこそ南澤がより重視しているのが、ミクロの変化です。
ミクロの変化とは、売上や台数といった結果指標だけではありません。例えば、今までと同じサービスを提供しているのに、クレームや苦情が増える…これは、顧客の変化が原因とも考えられます。
営業の現場であれば、即決率の変化、来店顧客数の変化、下取り入庫率の変化、車検の入庫率の変化など、挙げればきりがありません。一つひとつは些細に見えても、並べてみると顧客行動や価値観の変化が確実に表れています。
同じことは、製造業の現場でも起きています。見積提出後の返答が遅くなる、相見積もりが増える、値下げ要請が増える、試作や少量ロットの相談が増える。
さらに、手戻りや仕様変更が増える、図面の完成度が下がる、「とりあえず相談」といった曖昧な問い合わせが増える。これらはすべて、顧客側の判断基準や余裕の変化を示す小さな揺らぎです。
ただし、問題は揺らぎが起きていないことではありません。多くの場合、現場ではすでに違和感は感じ取られています。
にもかかわらず、その揺らぎが経営や意思決定の場まで上がってこない。ここに、組織文化の問題があります。
会議の場で、「それは数字が出てからでいい」「今は様子を見よう」と流され、結果として誰も深掘りしないまま時間だけが過ぎていく―――そんな光景も珍しくありません。
「数字が大きく崩れているわけではない」
「気のせいかもしれない」
「根拠が弱いと言われそうだ」
こうした空気が、小さな違和感を封じ込めてしまいます。結果として、問題が表面化した段階で初めて動く。この時点では、すでに選択肢は限られていることが多いのです。
時流に強い組織は、未来を正確に予測できる組織ではありません。小さな揺らぎを拾い、仮説として扱い、試しながら軌道修正できる組織です。
大きな流れを意識しながらも、日々の業務の中にある小さな変化に目を向ける。
そして、その声が自然に上がり、検討される仕組みがあるかどうか。ここが、数年後に大きな差となって表れてきます。
時流を読むとは、占いのように未来を当てることではありません。
変化に気づき、素早く、そして正しく軌道修正すること。
新しい年のスタートにあたり、あらためて問い直してみてはいかがでしょうか。
貴社は、大きな流れを掴めていますか。
そして、その揺らぎに、気づいていながら目を背けてはいませんか。
著:南澤博史
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