◆第117話:何かと理由をつけてやらない理由

   

「南澤さん、うちの社員は“動けない理由”を探す天才なんですよ…」ーーーこれは、とある小売業の経営者が、少し苦笑いしながら漏らした一言でした。

 

確かに、行動に移せない人は妙に理由づけが上手かったりします。「時間がない」「急ぎの案件があって…」「今日は家庭の用事が」「所属している〇〇の役割があって」ーーー。探し始めると、理由はいくらでも出てくるものです。

 

思い返せば、南澤も若い頃は同じでした。自信が持てなかったり、一歩を踏み出すのが妙に怖かったり…。そして「やらない理由」を丁寧に拾い集めては、自分を納得させていた時期がありました。今振り返ると、どこか気恥ずかしくなるような話です。

 

■表面的な理由と“本当の理由”は別物

 

動けない理由というものは、人の数だけ存在します。挙げてみると、どれももっともらしいのがまた厄介なのです。

 

面倒くさい

自信がない

自分の得にならない

責任を負いたくない

いつもと違うことが怖い

余計な仕事が増えそう

 

こうして並べると、案外どなたもひとつは心当たりがあるのではないでしょうか。

ただ、これらはあくまで“表向きの理由”で、本音は別のところに潜んでいることが少なくありません。

 

行動科学や心理学の分野では、人は不快な感情から自分を守るために、自分に都合のよい理由づけをして行動を正当化する傾向があるとされています。​

 

その意味で、“やらない理由”は、心の奥にある本当の動機や不安を覆い隠すための言葉であり、必ずしも行動の核心を直接語っているとは限りません。

 

だからこそ、表面的な理由に対して上司が丁寧に手を打っても、別の理由が次々と出てきてしまうーーーそんな状態が続いてしまいます。

 

■本当の理由が見えない限り、行動は変わらない

 

やらない理由の正体が見えなければ、いくら対策を講じても前に進みません。

これは店舗運営でも、個人の課題でも同じです。

 

問題解決の基本は「真因を捉えること」。表面の理由に振り回されているうちは、いくら改善策を並べても思うような成果は出ません。

 

では、どうすれば“本当の理由”を知ることができるのでしょうか。

 

意外に思われるかもしれませんが、この答えは日頃の信頼関係づくりに尽きます。信頼がなければ、人は心の奥を明かしません。

 

そして、その信頼を土台にした深いコミュニケーションこそが、行動を変えるための第一歩になります。ただ、この部分を自然にできる管理職は意外と多くありません。

 

なぜなら、“意図的に学ばなければ身につかないスキル”だからです。経験だけで磨かれるものではありません。

 

■行動を促す“仕組み”づくりが第一優先

 

もうひとつ踏み込むと、そもそも“気持ち”や“やる気”に左右されずに動ける仕組みを整えることが最優先です。

 

仕事とは、本来は感情任せにするものではなく、仕組みで再現性を確保すべきものです。「動かざるを得ない流れ」を設計するだけでも、多くの問題は静かに消えていきます。

 

とはいえ、相手も人ですから、調子が上がらない時や気持ちが乗らない日も当然あります。そんな時こそ、周囲のフォローや支え合う文化が力を発揮します。

 

■組織文化が弱いと、“やらない理由”が伝染する

 

行動しない人が放置されている組織では、その姿勢が静かに伝染し、“動かない文化”が出来上がってしまいます。

 

アドラーが重視した「共同体感覚」は、互いを信頼し合い、貢献し合う関係の中でこそ人は成長していくという考え方です。

 

反対に、前向きにフォローし合う文化が育っている組織では、互いに貢献し合おうとする空気が生まれ、自然と一人ひとりの行動が引き上げられていきます。

 

南澤が店長時代に痛感したのは、「仕組み」と「文化」の両輪が噛み合った瞬間、組織が驚くほどのスピードで変わり始めるということでした。

 

■結局のところ、問われるのは管理職の力量

 

動かない人をどう動かすか。

これは管理職にとって、永遠のテーマとも言えるものです。

 

本当の理由を見抜く洞察力。

前向きに支援するコミュニケーション力。

仕組みをつくり運用するマネジメント力。

 

そして、組織文化を育てるリーダーシップ。

この4つが揃ってくると、“やらない理由”は驚くほど小さくなっていきます。

 

■最後にーーーあなたの組織ではどうでしょうか?

 

貴社では、モチベーションに左右されず行動できる仕組みは整っていますか?

動けないメンバーの“真の要因”を見抜き、行動を引き出せる管理職は育っていますか?

些細な理由の積み重ねは、気づかぬうちに組織のスピードを奪っていきます。

 

逆に、ここへ一手を打つだけで、組織は見違えるほど動き始めます。

小さな理由の積み重ねか、それとも小さな一歩の積み重ねか。

その違いが、未来の景色を大きく変えるのかもしれません。

 著:南澤博史

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