
「南澤さん、うちの商品は性能では負けていないのに、なぜかお客様の心に響かないんです…」ーーーこれは、あるメーカーの営業部長からいただいた言葉です。
他社と比べて性能は同等かそれ以上であり、価格も決して高すぎるわけではない。それにもかかわらず販売が伸びない。このようなお悩みは、経営者や営業責任者から想像以上に多く耳にするものです。
一般的に「差別化」という言葉で片づけられがちですが、機能面での差別化が図られていても売上につながらない場合、課題は「売り方」にあると考えるべきでしょう。「差別化の方法」については当コラム第40話をご参照ください。→ https://minamisawa-consulting.jp/4lfk
営業の基本は、顧客にとっての「便益=ベネフィット」を伝えることです。機能や性能ではなく、その商品を使うことで顧客にどんな価値がもたらされるのかを語れるかどうかが、成否を分けます。
しかし、それだけでは不十分なケースも多々あります。そこにもう一つ加えるべき要素、それが「ストーリー」です。
特に高額商品やサービスにおいては、ストーリーの持つ力が格段に大きくなります。単なるスペックや価格の説明にとどまらず、その背景にある開発の経緯、込められた想い、積み重ねてきた歴史といった物語を語れるかどうかで、顧客の心に響く度合いは大きく変わります。
南澤自身も営業時代には、会社や商品の「語るべきストーリー」をいかに磨き上げるかに力を注いできました。単なる説明ではなく、過去から現在、そして未来へつながる物語として語れるかどうかが、営業スタッフの腕の見せ所なのです。
しかし現場を見渡すと、この点を軽視している会社は少なくありません。規模やシェアといった数字の話や、機能面にばかり終始してしまい、ストーリーが抜け落ちているのです。もちろん数字や機能は大事ですが、それだけでは人の感情を動かすには弱いのです。
例えば、自動車のカタログを開いたとき、冒頭数ページでその車のコンセプトや世界観がしっかりと語られていると、細かな性能を確認する前に「欲しい」という感情が芽生えることがあります。逆に、数字やスペックばかりが並ぶだけでは、心が動くことはありません。
そして、買い替える理由として機能面を探求していくのです。まだ十分に乗れる車を買い替える理由づけには、性能以上に「物語性」や「コンセプト」が必要になるのです。
ブランド品も同様です。バッグや時計が単なる機能製品ではなく、高額であっても選ばれるのは、その背後にある物語やブランドの歴史が顧客の心を動かすからです。つまり、ストーリーは顧客の購買理由を支える「感情の土台」となるのです。
また、サービス分野でもストーリーは威力を発揮します。たとえば旅館の宿泊プラン。単に「温泉付き」「地元食材の料理」と並べるだけでは印象に残りませんが、「三代にわたり受け継いできた味」「地域に根ざして守られてきた伝統」といった物語が添えられると、宿泊客はその背景ごと体験したくなるのです。商品だけでなくサービスにおいても、物語が顧客の心を動かすのです。
心理学者ジェローム・ブルーナーも「人間は物語によって世界を意味づけ、現実の出来事を理解し記憶する傾向がある」と述べています。古典にも「言は心に発す」(「言は心声なり」に近い意味)という言葉があり、言葉に込められた想いや物語が人の心を動かす力を持つことが説かれてきました。営業の現場でも同じく、「論理」だけでなく「物語」やエピソードによって人は心を開き、行動を起こすのです。
成果を上げる営業スタッフは例外なく「自分の言葉でストーリーを語る力」を持っていました。単なる商品説明ではなく、「なぜこの商品を生み出したのか」といった背景を交え、お客様が共感できる物語にして伝えるのです。
もちろん、全ての場面でストーリーが必要というわけではありません。即決が求められる場面や、価格競争の色が濃い市場では機能や条件面の説明が優先されます。
しかし、顧客が迷っているときや、競合と比較して選ばれる理由を求めているときにこそ、ストーリーの力が発揮されます。
ここで重要なのは、会社や商品に対して「語れるストーリーを持っているかどうか」です。スタッフ一人ひとりが、自社や商品に対する思い入れを言葉にできるか。その差は非常に大きいものです。
組織としても、単なるセールストークの習得ではなく、会社や商品の物語をスタッフが自分の言葉で語れるようにする仕組みづくりが欠かせません。新人スタッフには製品への「思い入れ」を持たせ、中途採用者には会社の歴史や理念を共有する。こうした取り組みが、ストーリーを語る力を底上げしていくのです。
結局のところ、営業とは「人から人へと物語を届ける仕事」と言っても過言ではありません。ストーリーを伝えられる営業は、顧客の心に火を灯し、購買理由を自然と作り出していきます。
貴社には、自社や商品のストーリーを語れるスタッフがどれだけいるでしょうか?そして、その力を育む仕組みは整っていますか?顧客の心を動かす物語を、組織として紡ぎ出す準備はできていますか?
著:南澤博史
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