
「南澤さん、これだけ快適なオフィス環境を整えているのに、熱中症の心配をしなければならないなんて…」ーーーこれは、IT機器やオフィス環境の整備を手がける企業の経営者の一言です。
空調設備の整ったビルの中で、温度も湿度も適切に管理されているにもかかわらず、スタッフの中には体調を崩す者が出たり、明らかに業務のパフォーマンスが下がっていたりと、首をかしげたくなるような現象が起きていました。
物理的な熱中症への意識の差
近年の暑さは、もはや「昔の夏」とは比較にならない厳しさです。
外回りの営業スタッフであれば、活動量が鈍るのは当然であり、その分、暑さへの警戒心も高く、熱中症対策にも意識が向いています。
一方で、冷房の効いたオフィスや店舗で働くスタッフはどうでしょうか?
環境が快適であるがゆえに、「自分は大丈夫」と油断してしまい、水分補給も後回しにしがちです。その結果、“意識の低さ”によって熱中症が起きているのです。
心の熱中症というもうひとつの問題
そしてもう一つ、見落とされがちなのが「心の熱中症」です。
近年、私が現場で感じるのは、身体的な暑さ以上に、心理的な疲弊やパフォーマンスの低下が夏場に目立つということです。
たとえば、次のような兆候はありませんか?
指示への反応が鈍い
報告・連絡・相談が遅れる
ミスが増える
声が小さくなる、笑顔が減る
私が以前ご支援したある店舗では、冷房が効いているにもかかわらず、職場全体に重苦しい空気が漂っていました。
調べてみると、店長が無意識のうちに「忙しさ」を言い訳に、スタッフへの声かけをほとんどしなくなっていたのです。
結果として、現場に「冷たい空気感」が広がり、まるで冷凍庫の中にいるかのような、凍りついた状態になっていました。
心の温度管理がパフォーマンスを支える
このような状況では、業務の質が目に見えて下がります。
「暑さ」ではなく、「だるさ」が支配し、それが気づかないうちに確認不足・意思疎通の欠如やミスの連鎖を引き起こします。
心理的な熱中症を防ぐには、単なる対症療法では足りません。
必要なのは、日頃からの関係性の積み重ね=“ストック型の人間関係”です。
日々の声かけや雑談、ねぎらいのひと言が、職場に“潤い”を与えるのです。
そうした関係性ができていれば、ちょっとした異変にも早く気づくことができ、深刻化する前に手を打つことができます。
『大学』に学ぶ、環境づくりの順序
古典『大学』には、「格物して而後知至る」とあります。
これは、「物事の本質を深く探求してはじめて、真の理解に至る」という意味です。
人の意識や心を整えるためには、まず身の回りの物事や環境(格物)を整えることが出発点だという教えです。
この順序は、現代の職場づくりにも通じます。
たとえば、エアコンや備品など物理的な環境を整えることで、スタッフの健康や快適さへの理解が深まり(知至)、そこから配慮や声かけのあり方(誠意・正心)へとつながっていきます。
つまり、“心を整える”には、環境や行動という“外的な要因”の整備が第一歩になる。
この考え方は、まさに「仕組みで人が変わる」という私の支援方針とも重なります。
リーダー自身が“熱中症”になっていないか?
そして忘れてはならないのは、リーダー自身もまた、心理的な熱中症にかかる危険があるということです。
忙しさに追われる中で、部下に対して無意識に冷たい対応をしていないでしょうか?
顔は笑っていても、声のトーンが下がっていないでしょうか?
感情を切り離し、「とにかく回せばいい」と割り切って接していないでしょうか?
実は、リーダーの“冷え”が、職場全体の体温を下げてしまうことが少なくありません。私自身、現場にいた頃、忙しさや焦りから表情が硬くなり、周囲にプレッシャーを与えていたことがありました。
「自分は冷静なつもり」でも、相手には「冷たい」と映ってしまう。この温度差が、現場に静かな疲弊をもたらします。
だからこそ、自分の感情の温度をきちんと感じ取ること。
「最近、笑えているか?」「ねぎらいの言葉をかけられているか?」
リーダー自身が自分の状態に敏感であることが、チームの健全さを守る第一歩です。
さて、貴社の職場では、「心の熱中症」を防ぐ仕組みが整っていますか?
温度や湿度といった“見える環境”の管理だけでなく、人と人との距離感や、日々の声かけといった“見えない環境”にも意識を向けられているでしょうか?
この夏、冷房だけで安心せず、信頼という名の“日々の水分補給”を忘れずに。
そしてまずは、リーダーであるあなた自身の“体温”が、現場にどんな影響を与えているのか―――今一度、確認してみてはいかがでしょうか。
著:南澤博史
