
「南澤さん、暑くなる中でも、好調なスタッフは精力的に活動をしてくれています…」ーーーこれは、地方都市のとある自動車販売店の経営者の一言です。
暑くなると活動量が落ちるスタッフが多い中で、好調な成績を残し、活動量を落とさずキープできるスタッフに対する賛辞でした。
私自身も自動車営業をしていた頃、夏場になると明らかに活動量が落ちていた時期がありました。とくに猛暑が続く日などは、商談の件数を自分に都合よく「調整」しようとしたこともありました。
今思えば、活動量が落ちていたというよりも、自分に言い訳をしながら「減らしていた」だけだったのかもしれません…。
現在では訪問営業の比率は減りましたが、それでも暑さは人の行動に大きく影響します。そしてその「行動の質」こそが、成果の差を生み出すのです。
夏場の活動量が落ちる理由には、二つのパターンがあると私は考えています。
一つは「意図的に落としている場合」。このタイプのスタッフは、自分のコンディションや成績を見ながら活動の強弱をコントロールしており、ある意味でセルフマネジメントができているとも言えます。
ただし、この場合も油断は禁物です。意図的に落とした活動量が、やがて惰性となって成績を落とすリスクもあるからです。
もう一つは「無意識に落ちている場合」。こちらのほうが問題は深刻です。本人には活動量が落ちているという自覚がなく、気づいたときには既に成績が下がっている。
このタイプは自己分析が弱く、軌道修正がしにくいため、上司による適切なマネジメントが欠かせません。
さらに厄介なのは、どちらのタイプにしても、上司が単に「頑張れ」と言ってしまうと逆効果になってしまうことです。特に意図的に活動量をコントロールしているスタッフには、「無理にやれ」と言うことが反発や離脱を招きかねません。こうした場面で必要なのは「活動量の管理」ではなく、「モチベーションのマネジメント」です。
実際、成績が順調なスタッフほど、モチベーションが高く、自然と行動量が増える傾向にあります。こうしたスタッフは、表情や言動にも余裕があり、顧客に対しても安心感を与えます。
また、強引な売り込みをする必要もないため、結果的に顧客から歓迎され、さらに良い成果を上げるという好循環を生み出します。
一方で、成果が出ていないスタッフは、焦りや不安が表情に出やすく、余裕がない対応になりがちです。その結果、無理な売り込みをしてしまい、顧客から敬遠されるという悪循環に陥ってしまいます。
実はこの「順調さ」は、単なる成績ではなく「演出」によっても作り出すことができます。私自身、営業時代には「売れている風」を常に意識していました。たとえ受注が少ない月でも、表情だけは自信満々に、言動も「今ちょうど忙しくて…」という雰囲気を出すようにしていたのです。
心理学でも、「自己成就予言(self-fulfilling prophecy)」という言葉があります。これは、自分が「うまくいく」と思って行動すれば、その通りの結果が引き寄せられるという理論です。逆に「どうせダメだろう」と思えば、その思考が行動に表れ、やがて本当にダメになってしまう…。
つまり、「順調そうに見えること」が本当の順調を引き寄せるのです。
また、順調な状態にあるスタッフは、自然とチーム内でもポジティブな影響を与えます。笑顔が増え、空気感が軽くなり、周囲のメンバーにも良い刺激を与えます。一人の順調がチーム全体の士気を押し上げ、好循環が広がっていくのです。
逆に、悪循環のスパイラルに入ると、チーム全体の雰囲気が重たくなり、上司や仲間の声かけさえもネガティブに受け取られてしまうことがあります。
このように考えると、「順調さの演出」は決して見せかけではなく、自己と組織を前向きに動かすための重要な戦略だと言えるでしょう。
では、どうすればスタッフが「順調さ」を演出できるようになるのか?
ポイントは、組織としてそのような空気や仕組みを用意してあげることです。たとえば、小さな成功体験を積ませてあげること。進捗を見える化して称賛する仕組みをつくること。
良い表情や雰囲気が広がるような環境を整えること。こうした仕掛けが、スタッフ自身の「順調感覚」を引き出し、やがて成果として表れます。
順調さは、最初から与えられるものではありません。行動とマインドセットの相互作用から生まれるものです。
そして、これこそが「ストック型営業」における組織づくりの根幹でもあります。単発の成果に一喜一憂せず、好循環を育てる土壌を整えていくーーその考えが定着すれば、会社全体が継続的に成果を生み出す力を持つようになります。
貴社では、スタッフ一人ひとりが順調さを演出し、前向きに活動できる仕組みは整っていますか?その演出が、やがて本物の成果をもたらすことを、信じてみてはいかがでしょうか。