
「南澤さん、うちのトップセールスの何人かに聞いても、皆口を揃えたように“当たり前のことをしているだけ”だというんです。これっていったいどういうことなんですかね…」 ーーーこれは、地方で数十店舗を展開する販売会社の経営者の言葉です。
この類の話は、私自身が営業や店長をしていた頃にも幾度となく耳にしてきました。そして、多くの業界の“売れる営業”が共通して使っているフレーズでもあります。
「即決できるコツはあるの?」「なぜそんなに商談が早いの?」といった質問に対し、彼らの多くは「特別なことはしていない」「当たり前のことをやっているだけ」と答えるのです。
しかし、果たして本当にそれは“当たり前”なのでしょうか?
ここでは、あえてシンプルに、2つの視点から「当たり前」が生まれる背景を考えてみたいと思います。
- “当たり前”が“普通でない”ケース
まずひとつ目は、「本人にとっては当たり前だが、他の人にとっては当たり前ではない」というパターンです。これは、いわば個人のノウハウや経験に基づく無意識の技術です。
たとえば、
・初対面で自然に相手の懐に入る会話力
・提案の切り出し方の間の取り方
・商談でのクロージングのタイミング …など
これらは技術として確立しているにもかかわらず、本人は「普通にやっているだけ」と感じていることがあります。
こうした“隠れたノウハウ”は、無意識ゆえに他者に伝えることが難しく、言語化されないまま属人化してしまうことが多いのです。
特に、評価制度が個人主義に偏っている組織では、「ノウハウを教えると自分の価値が下がる」といった心理が働き、共有が進みません。 だからこそ、組織としては「個人のノウハウを見える化し、共有できる仕組み」が不可欠です。
私は店長になる以前から、日々の業務で得た気づきを言語化し、文書に残すことを意識してきました。店長になってからはそれをチーム全体に展開することで、再現性を高めるよう努めました。
暗黙知を形式知へと転換し、共有する。この積み重ねが、組織としての“底力”をつくり、“底上げ”を実現します。
2. “当たり前”なのに“続けられない”ケース
ふたつ目は、文字通り“当たり前のこと”ではあるものの、それを継続できる人が少ないというケースです。
たとえば、
・日々の振り返りを欠かさない
・週ごとの目標を立て、行動計画を見直す
・定期訪問や新規訪問を地道に続ける…など
こうした基本行動は、決して特別なものではありません。しかしながら、これを「常に」「継続的に」実践し続けられる人は、実は非常に少数です。
売れ続ける営業は、こうした“当たり前の行動”の積み重ねが結果につながることをよく理解しており、どんな状況でも愚直に実行しています。それが、成果を出し続ける“売れる人の習慣”となるのです。
一方で、成果が一時的に止まる人には共通点があります。それは、「当たり前のことの継続」を軽視し、「成果が出たから今日はやらなくてもいいだろう」と自分に都合の良い判断を下してしまうことです。やがてそれは、“やらない習慣=売れない習慣”となってしまいます。
また、継続の重要性を理解していたとしても、モチベーションが維持できず行動につながらない場合もあります。この場合には、管理職のマネジメント力が問われます。
当コラムの第10話「営業力と生み出す継続力」でも述べたように、「継続力」はまさに営業力の源泉です。「できる」ことではなく、「やり続けている」ことが重要なのです。
“当たり前”を普通にするために必要なこと
トップセールスの「当たり前のことをしているだけです」という言葉には、実は深い意味が込められています。 それは、「できていない人への戒め」であり、「地味でも継続が最大の差になる」という無言のメッセージでもあります。
“当たり前”を“普通”として定着させるには、個人の意識改革だけでは限界があります。現場で継続させるためには、管理職による関与と、仕組みとして支える体制が欠かせません。
そして、トップセールスが持つノウハウを共有し、チーム全体での再現性を高めていくこと。これが、個人の力に頼らず、組織としての成果を安定的に生み出すためのカギとなります。
貴社では、“当たり前”を“普通”として根づかせるための仕組みを整えるために、どのような取り組みをされていますか?
著 : 南澤 博史