
「南澤さん、なんでこんなにも覚えるのに差があるのですかね…」ーーーこれは、ある飲食店の店長が漏らした一言です。
同じ時期に入社したアルバイトスタッフ2名。勤務時間も仕事内容も同じなのに、業務の習得スピードに大きな差があるとのことでした。
こうした場面は、現場を経験した方であれば一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
「なぜ、あの人は覚えるのが早いのか?」「なぜ、この人は何度教えてもできないのか?」そんな疑問が頭をよぎる瞬間は、誰しも経験があるでしょう。
この“仕事の覚え方の違い”には、個人の経験やスキル、環境適応力といった要素が絡んでいますが、私はこの違いを一言で表すなら、「習得力の差」だと考えています。
習得力とは何か?
習得力とは、新しい知識やスキルを、自分の力として現場で使いこなす力のことです。「知っている」や「聞いたことがある」だけでなく、実際の行動に結びついてこそ“習得”です。
この力は、生まれ持った能力だけで決まるものではありません。意欲、環境、教える側の関わり方、信頼関係――それらの要素によって大きく左右されます。
たとえば、やる気があり、過去に似たような経験があるスタッフであれば、乾いたスポンジのように、新しい仕事を次々と吸収していくことでしょう。
逆に、スキルや経験が乏しくても、意欲があれば着実に習得していきます。重要なのは「吸収できる状態にあるかどうか」です。
習得力が育たない職場の特徴
問題なのは、「意欲があるのに習得できない」ケースです。ここには、教える側の指導不足、あるいは組織の育成体制の不備があります。
「何度言っても覚えない」「最近の若者はすぐ辞める」こうした言葉の裏側には、“習得させる仕組みがない”という根本的な問題が隠れていることが多いのです。
たとえば、ある店舗では、先輩スタッフが「忙しいから教えられない」「見て覚えて」といった姿勢を取り、新人への指導がほとんど機能していませんでした。
さらに、別の企業では、新人スタッフが丁寧にメモを取りながらも、言語化されていない「暗黙のルール」が壁となり、何度も同じミスを繰り返していました。
先輩は「教えたよね?」と突き放すだけ。実際には、言語化されていない「暗黙のルール」や「空気の読み方」が多く、新人が理解するには無理があったのです。
こうしたケースでは、「本人の理解力」ではなく「教える環境」の方に課題があることが明らかでした。結果、習得の早い人しか残らず、少しつまずいた人は次々と辞めていく――そんな悪循環に陥っていました。習得力を高めるには、「本人の努力」だけでなく、「組織として習得させる仕組み」が不可欠です。
習得力を高めるための3つのポイント
習得力を高めるために、現場で押さえるべきポイントは以下の3つです。
1.意欲を引き出す信頼関係づくり
習得には集中力と持続力が必要です。その源になるのが“信頼”です。「この人の言うことなら聞いてみよう」と思える関係があるかどうかで、習得スピードは大きく変わります。
2.段階的な育成の仕組み
最初からすべてを任せるのではなく、業務をステップに分けて教える。習得に合わせて少しずつ負荷を上げていく設計が必要です。
3.教える側の育成力
習得力を語るときに忘れてはならないのが「教える力」です。教える側が感覚で指導していると、属人的になり再現性がありません。指導スキルも“仕組み化”することで、組織の底上げが可能になります。
また、意欲に加えてスキルや能力も不足しているスタッフに対しては、モチベーション管理を含めた指導が一層難しくなります。
習得力の底上げは仕組みで実現できる
当社が提唱する「全員参加底上げ型機動的店舗経営®︎」では、意欲や能力に関係なく、すべてのスタッフが一定のレベルに達するための“習得支援の仕組み”を構築しています。
教える人によって教え方がバラバラだったり、忙しさにかまけて育成が放置されたりといった現場では、習得力は個人任せになりがちです。
しかし、習得力の高い人材ばかりを採用するのは現実的ではありません。だからこそ、「どんな人でも習得できる仕組みづくり」が重要になるのです。
あなたの職場では、習得力が育っていますか?いま、あなたの職場では、新人や異動者がどれくらいのスピードで習得していますか?
そのスピードに差が出ているとしたら、それは本人の問題でしょうか?それとも、組織や上司が“習得させる仕組み”を持っていないからかもしれません。
習得力は、現場力そのものです。人材が早く戦力化されれば、組織全体のスピードも上がります。
“できる人”を探すのではなく、“できるようにする仕組み”をつくる。それこそが、これからの現場マネジメントに求められる視点ではないでしょうか。