
「南澤さん、車両販売時のトラブルって、ほとんどが納車前に起きませんか?」ーーーこれは、とある自動車販売店の店長からの一言でした。
確かに、私が現場で見てきた実感としても、「契約後〜納車まで」に何らかのトラブルが起こるケースが多かったのは事実です。
たとえば、書類のやりとり、納期の連絡、納車日の決定に関する認識のズレなど…。一つひとつは些細なことに見えますが、こうした細かな行き違いが、大きな不信感へとつながってしまうのです。
なぜこうしたすれ違いが起こるのか。その背景には、営業担当者と顧客との間に存在する「モチベーションのピークのズレ」があります。
顧客のピークは「納車」、営業のピークは「契約」
一般的に、車を買う顧客のモチベーションは、契約後から納車日に向けてどんどん高まっていきます。頭の中では、納車後のドライブや家族とのお出かけ、SNSにアップする写真など、いろいろな“楽しみ”が広がっていることでしょう。
一方、営業担当者の多くは「契約成立」がモチベーションのピークになりがちです。これは、成果評価の仕組みやインセンティブ制度、社内の文化などが関係しています。契約を取った瞬間に「一仕事終えた」と感じてしまうのです。
つまり、顧客は「これから」ワクワクが始まるのに、営業は「ここで」一区切りと感じてしまう。このギャップが、対応の温度差や連絡不足、フォローの遅れにつながっていきます。
これは、何も特別なことではなく、ほとんどの営業担当者に共通の傾向と言えます。ある意味では仕方のないことかもしれません。ただし、この傾向を営業担当者が自分自身で“自覚できているか”が、結果を左右します。
モチベーションギャップである“ズレ”が、信頼を大きく左右する
私が以前支援した販売会社では、営業担当者が納車後のお礼連絡をしないケースも多く、クレームではないまでも「物足りなさ」を感じるお客様が一定数いました。そこを改善すべく、「契約後から納車・アフターフォローまで」を一貫して管理する“モチベーション曲線の再設計”を行いました。
ほんの一例ですが、以下のような対応を徹底しました。
契約後すぐに「お礼」を伝える連絡
契約後1週間程度で状況報告を行う連絡
納期に関する定期的な連絡
納車日の決定に関する連絡
納車前日には最終確認と「ご準備できました」というワクワクを促す連絡
納車1週間以内に「その後いかがですか?」というフォロー連絡
特に重要なのは、「定期的な連絡の仕組み化」です。ここが曖昧だと、属人的な対応に頼らざるを得ず、担当者ごとにバラつきが出てしまいます。
実際には、「どのように、どのタイミングで、何を伝えるべきか」がわからない営業担当者も少なくありません。だからこそ、マニュアルやスクリプトを整備し、指導していく必要があります。
そして、こうした“ほんのひと手間”の積み重ねが、「最後まで寄り添ってくれる営業」という印象を残し、顧客の満足度と信頼感を大きく高めるのです。
モチベーションのギャップを埋めることが、売上と信頼につながる
営業は「契約」まで。
顧客は「納車」から。
この“分岐点”をいかに埋めるかが、真の営業力と言えるのかもしれません。
契約後に顧客に寄り添い、モチベーションを一緒に高めていける営業は、信頼を勝ち取ります。一方で、契約を取った段階で気持ちが切れてしまう営業は、顧客との関係性を築く前に終わってしまうのです。
ただし、これを個人の意識に任せるのは限界があります。長年の経験上、最も有効なのは「仕組み」で解決することです。
ストック型営業で、モチベーションギャップを仕組みで埋める
当社が推進している「ストック型営業」では、営業活動を属人的にしないために、契約後のコミュニケーションもあらかじめ“ストック(設計)”しておくことを重視しています。
この仕組みがうまく機能すれば、モチベーションギャップが埋まり、自然と「先行受注」や「紹介受注」へとつながっていきます。
つまり、モチベーションギャップを埋めることは、単なる信頼形成にとどまらず、「継続的な売上を生み出す構造づくり」でもあるのです。
貴社では、契約後にモチベーションが下がらない営業担当者を育成していますか?
また、営業担当者と顧客とのモチベーションギャップを埋めるための「仕組み」は整っていますか?
顧客のワクワクに寄り添える営業こそが、これからの時代に選ばれる営業です。