第83話:コミュニケーション能力を高める方法

  

「南澤さん、私は製造現場で育った職人です。顧客はもちろん従業員ともよりよい関係を築きたい。社長としてコミュニケーション能力を真剣に高めたいと思っています…」―――これは、プラスチック射出成型部品を製造する中小企業の社長の一言でした。

 

会社員であれば定年も近づき、あとは問題を起こさず過ごそうと考える人が多い中で、今からコミュニケーション能力を高めたいと真剣に考える立派な経営者の姿に私は感銘を受けました。

 

円滑に仕事を進める上で、コミュニケーションは欠かせません。そのためには、コミュニケーション能力を高める必要があります。

 

販売や営業の現場では、コミュニケーション能力を高めなければ成果を出せないため、必然的に高めることが求められますが、職種によっては販売や営業スタッフほど求められません。そのため、コミュニケーション能力自体に焦点が当たりにくいのも事実です。

 

コミュニケーションは大きく3つに分類されます。伝えるコミュニケーション、受け取るコミュニケーション、そして双方向のコミュニケーションです。

 

伝えるコミュニケーションは、部下から上司への進捗報告や案件の相談などが該当します。

受け取るコミュニケーションは、指示を正しく理解する、他者の意図を汲み取るなどの行動です。

双方向のコミュニケーションは、意見を伝えあったり、課題を一緒に考えて解決したりするものです。

 

仕事の受け渡しであれば、一般的に「QCD」と呼ばれる、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)を明確にすることで、成果物は依頼したものに近づきます。これはコミュニケーション能力というよりも、ルールや仕組みの問題です。

 

しかしながら、人と人との関わりがある以上、コミュニケーション能力を高めることは決して無駄にはなりません。微妙なニュアンスを伝えたり、それを受け取る能力は、まさにコミュニケーション能力の高さに直結します。

 

特に対面コミュニケーションでは、「言葉」そのもの以外の聴覚情報や視覚情報から微妙なニュアンスを汲み取る能力が求められます。

 

例えば、車の販売現場において、お客様が「高いなあ」と呟く場面があります。この一言そのものには実はあまり意味がありません。言葉に含まれる聴覚情報や視覚情報の微妙なニュアンスを読み取ることが重要です。

 

それが本当に高くて買えないという意味なのか、値引き次第で購入したいという意味なのか、あるいはまったく購入意欲がないのか。その微妙な差を判断するスキルが必要です。

 

これを適切に察知できないスタッフは、誤った値引きを行い、結果として成約に至らないという問題が起こります。微妙なニュアンスを汲み取ることは極めて重要なコミュニケーション能力です。

 

「高いなあ」の具体的な対応方法については、第22話「『気づくことができる人』を育成する方法」も併せてご参照ください。

 

また、人の本音や価値観を理解するには、傾聴のスキルが欠かせません。冒頭の経営者が求めるコミュニケーション能力とは、まさに人の本音や価値観を知り、関係性を深めるための能力でした。

 

相手の気持ちや考えを察する(感じとる)こと、そしてそれを相手に理解していると伝えること。この円滑な繰り返しにより信頼関係が構築され、ビジネスが円滑に進行します。

 

コミュニケーション能力を体系的に高めるには、「傾聴力」を磨くトレーニングが効果的です。具体的には、相手の話を遮らず最後まで聴くこと、相手が発した言葉を自分の言葉で伝え返すこと、相手の立場に立って気持ちを理解しようと努力することが挙げられます。

 

また、傾聴に必要な基本姿勢を身につけるだけでなく、相手のペースに合わせるページングなどのテクニカルなスキルを体系的に身につける必要があります。

  

さらに、言葉だけでなく、表情や声のトーンなど非言語コミュニケーションにも注意を払う習慣をつけることで、コミュニケーション能力は劇的に向上します。

 

ところが、多くの企業では、このようなコミュニケーション能力を体系的に教える場が少ないのが現状です。一部のトップセールススタッフが感覚的に実践しているケースはあるものの、それを明確な体系として学び、実践する環境がないため、多くのスタッフが感覚的に苦労しています。

 

貴社では、コミュニケーション能力を高める具体的なプログラムを用意していますか?コミュニケーション能力を高める仕組みを整備していますか?今こそ、組織的に取り組んでみてはいかがでしょうか。