第81話:学びと実践

  

「南澤さん、独立する前に学んだことで、後から一番役に立ったものは何でしたか?」ーーーこれは、先日お会いした、ある経営者からいただいた何気ない質問でした。

 

独立前に学んだことは数多くあります。役立っていると思いたいところですが、正直に振り返ってみると、本当にすべてが役立ったかというと疑問が残ります。

 

私は2019年にコンサルタントの国家資格である「中小企業診断士」を取得しました。これを皮切りに、その後の2年間でキャリアコンサルタントやメンタルヘルスマネジメントⅠ種、販売士1級など約10の資格を取得しました。これらは取得に相当な手間と時間を要し、難易度も決して低くはありません。

 

しかしながら、資格は「パスポート」として役立つことはありますが、資格そのものが仕事を保証するわけではありません。一番役に立ったかと問われれば、正直なところ「No」というのが私の答えです。

 

資格がなくてもできることは山ほどあります。資格はあって損はありませんが、必須条件ではないということです。独立して初めて、そのことを強く実感しました。資格取得を目的化すると、いわゆる「手段の目的化」に陥りやすいという点にも注意が必要です。

 

その一方で、私は20代半ば過ぎから本を読む習慣を持つようになりました。実は学生時代はまったく読書の習慣がありませんでした。しかし社会に出て、単に読むだけでなく、「学びと実践」を繰り返すようになったことで、自分自身の成長を大きく促すことができました。

 

本で学んだことを仕事で実践するという習慣を身につけたことは、非常に大きな意味がありました。このことによって、新しい仕事や、レベルの高い仕事にも対応することができるようになりました。

 

営業時代にはコミュニケーションスキル、時間管理、悩みの解決方法…あらゆることを本から学び、実践しました。

 

店長時代には、マネジメント、部下育成、問題解決、人を動かすためのスキルを徹底的に学びました。学んだことを即座に現場で実践することで、仕事の質や成果は目に見えて向上しました。

 

また、私は仕事上の失敗や困難からも多くを学びました。成功だけでなく失敗から得た教訓は、次の機会に必ず役立つ貴重な財産になりました。「学びと実践」のプロセスにおいては、成功体験だけでなく失敗体験こそが深い洞察をもたらしてくれるのです。

 

組織において重要なのは、「学びと実践」を繰り返す「学び続ける組織・チーム」を作ることです。継続的に学習するチームは環境変化にも柔軟に対応し、持続的な成長を遂げることが可能です。

 

逆に学びの習慣がない組織は変化に取り残され、衰退していく恐れがあります。だからこそ、「学習する組織」をつくるための仕組みづくりが非常に重要なのです。「成功体験」だけでなく「失敗体験」を共有することが欠かせません。

 

「人材育成」に関する仕事は、緊急ではありませんが極めて重要な仕事です。緊急性がないため、意識的に仕組みを作らなければ実行されない性質をもっています。そのため、継続的に人材が育つ環境を整えるためには、明確な仕組み化が不可欠なのです。

 

冒頭の経営者の質問に戻ります。「独立する前に学んだことで、後から一番役に立ったことは?」私の答えは、「会社員時代の実務経験そのもの」です。

 

26年間の会社員生活の中で培った実務経験は、「学びと実践」の集合体であり、現在の私がコンサルタントとして提供するノウハウの核心です。実務を通じて理論を実践に落とし込み、その中から得られたものこそが私の強みとなっています。

 

コンサルタントの中には理論武装に終始する方もいます。それが悪いというわけではありませんが、実務経験の有無はその人の主義主張の独自性を見れば簡単に分かります。実務経験が豊富なコンサルタントほど、自分なりの視点や独自の主義主張を明確に持っています。

 

当社が実務経験に基づく具体的なノウハウや独自の視点を提供していることは、ウェブサイトやこのコラムをご覧いただければお分かりいただけるはずです。

 

貴社では「学習する組織」を構築するためにどんな工夫をされていますか?そのような組織を実現するための仕組みは整っていますか?