
「南澤さん、いざという時の災害マニュアルや、BCP(事業継続力強化計画)をわざわざ手間をかけて作成するほどの意味はありますか?」ーーーこれは、創業から数年ですが大きく成長しつつある、とある企業経営者の一言でした。
近年、地震や台風などの大規模な自然災害だけでなく、ウイルス、ランサムウェアなどのサイバーテロ、SNSでのバイトテロなど、人的災害が頻繁に発生しており、災害マニュアルやBCPが注目されて久しくなります。
私自身も、かつて店長という業務をこなしながら、BCPの作成支援を実際に行っていました。また、自店舗における災害マニュアルについても、常に見直しをしていました。
私の経験から言っても、たしかにこれらの作成にはかなりの工数と手間がかかります。ある程度の専門的な知識も必要です。費用対効果を考えるならば、割に合わないと考えても決して不思議なことではありません。
なぜならば、一般的に多くの災害マニュアルやBCPは、いざという時のために作成するものなので、実際に発生しない限り効力を発揮しないからです。当たり前の話ですが、それらは発生した時のために作られています。
災害マニュアルやBCPを「いざという時のためだけ」に作成するというのであれば、冒頭の経営者のように考えるのが、むしろ普通と言えるかもしれません。そして多くの会社では「作ることが目的」になり、「手段の目的化」が起こっています。
私自身は、いざという時の備えはもちろんのこと、真の目的は「顧客満足度向上」にあると考えています。ここで言う「顧客」には、取引先から地域住民、社員の家族まで、さまざまなステークホルダーが含まれます。
真の目的を理解していると、災害マニュアルやBCPの作成工程は実はまったく違うものとなります。ここでは詳しく述べませんが、幅広い意味での顧客の視点が入れることで、日常の業務にも役立ち、内容が充実したものになります。
災害マニュアルやBCP策定においては、まずは自社を取り巻くリスクを徹底的に洗い出す必要があります。リスクを洗い出す視点としては、外部環境と内部環境のリスク、自然災害と人的災害、一次災害と二次災害などがあげられます。そして、洗い出したリスクを、発生確率と影響度で分けます。
また、リスクへの対応は「避けられるリスク」と「避けられないリスク」に分けて考えることが重要です。避けられるリスクなら積極的に回避し、大規模な地震や台風のように避けられないリスクなら、影響を最小限に抑える工夫が求められます。
逆に、影響度も低く発生確率も低く、リスクが許容できるものであれば、あえて回避する必要はありません。あえてほったらかしにするわけです。
このようなリスクに対する考え方は、自然災害だけに限ったことではありません。例えば、「採用」や「育成」など、人事関連でも同様の考え方が適用できます。
しかし、残念ながら多くの企業では発生確率がそれなりに高く、影響度も大きい人に関する「避けられるリスク」を放置しています。
例えば、従業員・スタッフのメンタル不調はその最たるものです。私の経験では、多くの場合、それらは「避けられるリスク」と言えます。
当コラム「第41話:いつもと違う部下に気づく重要性」で紹介している通り、管理職が早期に気づくことによって、メンタル不調になることを防げます。そのため、管理職による「ラインケア」が極めて重要になります。
私が提唱する「人が辞める悪循環モデル」では、「職場の人間関係の悪化」を人が辞める理由の根源としています。これは、私が店長時代に「ダニエル・キム氏」が提唱した「組織の成功循環モデル」をもとに考えました。

「職場の人間関係が悪化する」→「人が辞める」→「他のスタッフに負荷がかかる」→さらに「職場の人間関係が悪化する」
さらに、「他のスタッフに負荷がかかる」→「メンタル不調になる人が増える」→「人が離脱する」→「他のスタッフに負荷がかかる」→さらに負荷がかかりメンタル不調が広がるという、二重の負のスパイラルに陥ります。これが店舗経営コンサルタントである私が提唱する「人が辞める悪循環モデル」です。
このような状態にならないためにも、日頃からのリスク管理が重要です。特に重要な経営資源である「人」に関するリスク対応は、企業における優先課題の一つです。
人に関する「避けられるリスク」の対応方法はさまざまですが、最も有効なのは、管理職の育成と働きやすい職場環境を構築する仕組みです。
職場の人間関係を良好にするためには、さまざまな仕組みが考えられます。管理職の果たす役割も重要です。
当社では、「ストック型営業」の仕組みを導入しながら、管理職の育成や働きやすい職場環境を構築していきます。
貴社では、重要な人に関する「避けられるリスク」を回避していますか?そのための仕組みを構築していますか?