
「南澤さん、当社では、優秀な営業スタッフが1名いるのですが、属人的な営業のスキルを他のスタッフに本当に共有することはできるのでしょうか?」ーーーこれは、とある地方都市の自動車販売店の経営者の一言でした。
優秀な営業スタッフが1名いるだけでも羨ましいという企業や店舗も多いかと思います。この経営者から、その優秀なスタッフのノウハウをなんとか他のスタッフにも共有させたいという依頼を受けました。
これまでに何度かノウハウの共有を試みたものの、属人的なノウハウであるがゆえに、他のスタッフに伝えることは容易ではありませんでした。
このような課題は、この企業だけに限らず、多くの現場で発生しています。属人化が進むことで、若いスタッフや新人スタッフに経験やノウハウが共有されず、企業としての成長が停滞することがあります。
また、経験を重ねたスタッフ同士でも、個別のノウハウが体系化されていないために、成果の差が顕著に表れることがあります。
では、なぜこのような属人化が起こるのでしょうか?
感覚的な営業の壁
一つ言えるのは、優秀なスタッフやトップセールスと呼ばれる人たちが、仕事を「感覚的」に行っているケースが多いということです。
一見すると、彼らは理屈に基づいて仕事をしているように見えますが、実際には経験によって磨かれた感覚をもとに動いています。そのため彼ら自身も行動の本当の意味を言語化することが難しいのです。
トップセールスに「なぜ売れるのか?」と尋ねても、多くの場合は「普通のことをやっているだけです」という答えが返ってくるでしょう。これは、彼らが意識せずに培った技術を感覚的に駆使しているからです。
言語化の重要性
トップセールスや優秀なスタッフは販売に長けていますが、自分の行動を言語化する能力は必ずしも高くありません。なぜなら、営業活動において「言語化する必要」があまりないからです。
私自身も、営業スタッフとして活動していた頃は、自分の行動を細かく言語化することはありませんでした。しかし、店長として人材育成の立場になったことで、言語化の重要性を痛感しました。
特に未熟なスタッフや低パフォーマンスのスタッフを成長させるには、具体的な言葉で伝えることが不可欠です。「感覚的なもの」を「言葉」にすることで、再現性のある技術としてチームに広めることができます。
感覚的にやっているものを、言語化し、さらにかみ砕いて誰でもわかるように伝えるということを、この頃から意識し始めました。
そして、自分自身の過去を振り返り、一つ一つを言語化するようにつとめました。良くも悪くも、売れない営業から売れる営業に変わることができた段階的なプロセスを踏んだことが大きく役立ったのです。
このように、私が営業から管理職へと移行した際に苦労したのが、「感覚でできることを言葉にして伝えること」でした。しかし、その過程で気づいたのは、「言語化こそがスキルの再現性を生み出す鍵である」ということです。
言語化が生む「再現性」
「言語化」がなぜ必要かと言えば、言語化することによって「再現性」が生まれるからです。言語化できないものには「再現性」はありません。
例えば「科学」の分野では、「再現性のないもの」は「インチキ」とされます。営業の世界では、さすがにインチキ扱いはされませんが、再現性がなければ安定的な実績を残すことは決してできません。
そして、優秀なスタッフのノウハウが言語化されていなければ、それは組織全体にとって再現不可能な「属人的な技術」となってしまいます。
営業だけではなく、仕事全般においても同じことが言えます。「適当にやっといて」「うまくやっておいて」といった曖昧な指示では、望んだ成果を得ることはできません。
目的や具体的な指示を言語化することで、仕事の精度が上がり、効率的に進められるようになります。特に「QCD(品質・コスト・納期)」の観点を明確にし、目的と意図を伝えることが重要です。
言語化を仕組みにする
多くの現場では、感覚的なものを言語化しないために非効率が生まれています。これを防ぐためには、個人の能力に依存するのではなく、企業として仕組みを整える必要があります。
例えば営業ノウハウのマニュアル化や研修の実施、ロールプレイングを活用したトレーニングなどが考えられます。
特に、トップセールスや優秀なスタッフの行動を言語化し、ノウハウを共有することが大事です。成功事例を共有するための仕組みが必要です。
私自身は、店長という役割を担いながら、同時にコンサルタント業務を通じて、理論と実務を結びつけ言語化することにこれまでつとめてきました。
そのようなノウハウは、残念ながら社内の業務だけをやっている人、実務を知らないコンサルタントには決してできません。
感覚的なノウハウを言語化することは、組織の成長に不可欠です。それらは、業種・業界が違うとしても仕組みによって実現することができます。
貴社では、営業の属人的なノウハウを言語化し、共有する仕組みがありますか?