第74話:管理職に必要な公平性

  

「南澤さん、評価制度を見直せば、社員のモチベーションは上がるはずだと思っていました。でも、現実は違いました。」IT関連事業を営む経営者は、困惑しながら語りました。

 

「1年ほど前に、新しい評価制度を導入したのですが、最近になって社員から不満の声が出てきています…」

 

社員のモチベーション向上を目的に導入した評価制度が、かえって不満を生み、組織全体の士気を低下させることがある。これは、どの企業でも起こり得る問題です。

 


この会社は近年、売上の拡大とともに社員数が増え、それまでの属人的な経営から脱却するために、新しい人事評価制度を導入しました。

 

しかし、成果主義を取り入れた新しい評価制度は社員に不満をもたらし、モチベーション低下を招いてしまいました。

 

これは決して珍しい話ではありません。評価制度の変更が従業員のモチベーション低下を引き起こし、逆効果になってしまうケースは多々あります。

 

貴社では、評価制度が社員のやる気を引き出す仕組みになっていますか?それとも、逆効果になっていませんか?

 

評価制度が機能しない主な原因

1.制度自体に問題がある

特定の職種や階層に有利になっていると、他の職種の社員に不満を持ち、組織の一体感が失われます。

2.組織風土・文化に合わない

例えば、チームワークを重視する文化の企業で、個人の成果を過度に強調する評価制度を導入すると、チームの連携が乱れ、逆に生産性が低下することがあります。

3. 評価をする管理者に問題がある

どんなに優れた制度でも、運用する管理者の公平性が欠けていれば意味がありません。

 

よくある問題点

  • 評価制度の理解不足

  →判断基準がブレる

  • 被考課者の観察不足

  →十分な根拠を持たずに評価するケースが発生

  • 無意識のバイアス(認知の歪み)

  →公平性が損なわれる

 

これらの問題を解消するためには、管理者に対する教育が不可欠です。評価者の正しい知識と、不倫理的な評価の防止のための教育が重要です。

 

評価者のバイアスがもたらす影響

●よくある評価バイアスの例

1. ハロー効果(Halo Effect)

ある特定の特徴や実績が目立つと、それが全体の評価に影響を及ぼす。

例:「営業成績が優秀だからリーダーシップもあるはず」と思い込む。

2. 近時効果(Recency Effect)

直近の出来事が強く印象に残り、半年や年間を通じた貢献度が適切に評価されない。

例:直前に大きな成果を出した社員が高評価され、地道な努力が過小評価される。

3. 類似性バイアス(Similarity Bias)

自分と似た価値観や経歴を持つ社員に高評価をつける傾向。

例:「自分と同じ大学出身だから、しっかりしているはず」と判断する。

4.寛大化傾向・厳格化傾向

評価者が極端に甘い、または厳しい評価をつける傾向。
例: 「普段頑張っているから多少ミスをしても問題ない」と過大評価する、または「小さなミスでも厳しく評価する」。

5.中心化傾向

極端な評価を避け、中間点の評価ばかりつける傾向。
例: 「特に突出した成果もミスもないから、とりあえず “普通” でいいか」と判断する。

 

公平な評価を実現するために

公平性を確保するためには、以下の3つのポイントが重要です。

1. 評価基準の明確化

評価基準を具体的かつ客観的な指標に落とし込むことが大切です。例えば、「売上達成率」「チーム貢献度」「プロジェクトの進捗管理能力」など、定量的に測定可能な項目を設定することで、評価者の主観を排除できます。

2. 多角的な評価の活用

直属の上司だけでなく、同僚や部下からのフィードバックを取り入れることで、より多角的で公平な評価を実現できます。

3. 定期的な評価者研修

管理職自身が持つバイアスを理解し、それを排除するための研修を実施することで、評価の公正性を向上させることができます。

 

公平な評価がもたらす効果

公平な評価制度を構築すると、以下のようなメリットが生まれます。

1.社員のモチベーション向上

正当な評価がなされることで、「努力が報われる」と実感し、従業員のやる気が向上します。例えば、ある企業では、評価基準の明確化を行ったことで、社員の満足度が20%以上も向上しました。

2.離職率の低下

評価に対する不満が減ることで、優秀な人材の流出を防ぐことができます。例えば、360度評価を導入した企業では、離職率が15%から5%に低下しました。

3.組織全体のパフォーマンス向上

公正な評価のもとで適材適所の人員配置が行われ、組織力が高まります。例えば、明確な評価制度を導入したことで、新規プロジェクトの成功率が30%向上した企業もあります。

 

公平な評価が欠けると、どのような問題が生じるのか?

1.社員のやる気が低下し、生産性が低下する

2.優秀な人材が不満を抱え、流出する

3.評価基準の不透明さが、社内の不信感を生む

 

どのような評価制度を採用するにせよ、透明性、公平性、納得性は欠かせません。重要なのは、制度の種類ではなく、これらの要素が担保されているかどうかです。そのためには、制度自体だけでなく、評価者の公平性を確保することが大事なポイントとなります。

 

管理職による「公平な評価」は、組織の健全な成長に不可欠です。バイアスを意識し、明確な評価基準を設定することが、公正な評価の第一歩となります。貴社では、公平な評価ができていますか?