
「南澤さん、評価制度を見直せば、社員のモチベーションは上がるはずだと思っていました。でも、現実は違いました。」IT関連事業を営む経営者は、困惑しながら語りました。
「1年ほど前に、新しい評価制度を導入したのですが、最近になって社員から不満の声が出てきています…」
社員のモチベーション向上を目的に導入した評価制度が、かえって不満を生み、組織全体の士気を低下させることがある。これは、どの企業でも起こり得る問題です。
この会社は近年、売上の拡大とともに社員数が増え、それまでの属人的な経営から脱却するために、新しい人事評価制度を導入しました。
しかし、成果主義を取り入れた新しい評価制度は社員に不満をもたらし、モチベーション低下を招いてしまいました。
これは決して珍しい話ではありません。評価制度の変更が従業員のモチベーション低下を引き起こし、逆効果になってしまうケースは多々あります。
貴社では、評価制度が社員のやる気を引き出す仕組みになっていますか?それとも、逆効果になっていませんか?
評価制度が機能しない主な原因
1.制度自体に問題がある
特定の職種や階層に有利になっていると、他の職種の社員に不満を持ち、組織の一体感が失われます。
2.組織風土・文化に合わない
例えば、チームワークを重視する文化の企業で、個人の成果を過度に強調する評価制度を導入すると、チームの連携が乱れ、逆に生産性が低下することがあります。
3. 評価をする管理者に問題がある
どんなに優れた制度でも、運用する管理者の公平性が欠けていれば意味がありません。
よくある問題点
- 評価制度の理解不足
→判断基準がブレる
- 被考課者の観察不足
→十分な根拠を持たずに評価するケースが発生
- 無意識のバイアス(認知の歪み)
→公平性が損なわれる
これらの問題を解消するためには、管理者に対する教育が不可欠です。評価者の正しい知識と、不倫理的な評価の防止のための教育が重要です。
評価者のバイアスがもたらす影響
●よくある評価バイアスの例
1. ハロー効果(Halo Effect)
ある特定の特徴や実績が目立つと、それが全体の評価に影響を及ぼす。
例:「営業成績が優秀だからリーダーシップもあるはず」と思い込む。
2. 近時効果(Recency Effect)
直近の出来事が強く印象に残り、半年や年間を通じた貢献度が適切に評価されない。
例:直前に大きな成果を出した社員が高評価され、地道な努力が過小評価される。
3. 類似性バイアス(Similarity Bias)
自分と似た価値観や経歴を持つ社員に高評価をつける傾向。
例:「自分と同じ大学出身だから、しっかりしているはず」と判断する。
4.寛大化傾向・厳格化傾向
評価者が極端に甘い、または厳しい評価をつける傾向。
例: 「普段頑張っているから多少ミスをしても問題ない」と過大評価する、または「小さなミスでも厳しく評価する」。
5.中心化傾向
極端な評価を避け、中間点の評価ばかりつける傾向。
例: 「特に突出した成果もミスもないから、とりあえず “普通” でいいか」と判断する。
公平な評価を実現するために
公平性を確保するためには、以下の3つのポイントが重要です。
1. 評価基準の明確化
評価基準を具体的かつ客観的な指標に落とし込むことが大切です。例えば、「売上達成率」「チーム貢献度」「プロジェクトの進捗管理能力」など、定量的に測定可能な項目を設定することで、評価者の主観を排除できます。
2. 多角的な評価の活用
直属の上司だけでなく、同僚や部下からのフィードバックを取り入れることで、より多角的で公平な評価を実現できます。
3. 定期的な評価者研修
管理職自身が持つバイアスを理解し、それを排除するための研修を実施することで、評価の公正性を向上させることができます。
公平な評価がもたらす効果
公平な評価制度を構築すると、以下のようなメリットが生まれます。
1.社員のモチベーション向上
正当な評価がなされることで、「努力が報われる」と実感し、従業員のやる気が向上します。例えば、ある企業では、評価基準の明確化を行ったことで、社員の満足度が20%以上も向上しました。
2.離職率の低下
評価に対する不満が減ることで、優秀な人材の流出を防ぐことができます。例えば、360度評価を導入した企業では、離職率が15%から5%に低下しました。
3.組織全体のパフォーマンス向上
公正な評価のもとで適材適所の人員配置が行われ、組織力が高まります。例えば、明確な評価制度を導入したことで、新規プロジェクトの成功率が30%向上した企業もあります。
公平な評価が欠けると、どのような問題が生じるのか?
1.社員のやる気が低下し、生産性が低下する
2.優秀な人材が不満を抱え、流出する
3.評価基準の不透明さが、社内の不信感を生む
どのような評価制度を採用するにせよ、透明性、公平性、納得性は欠かせません。重要なのは、制度の種類ではなく、これらの要素が担保されているかどうかです。そのためには、制度自体だけでなく、評価者の公平性を確保することが大事なポイントとなります。
管理職による「公平な評価」は、組織の健全な成長に不可欠です。バイアスを意識し、明確な評価基準を設定することが、公正な評価の第一歩となります。貴社では、公平な評価ができていますか?