
「南澤さん、今回、昇進・昇格しなかったスタッフがやる気を失ってしまい、どうしたものかと…」ーーーこれは、比較的規模の大きい企業の経営幹部の一言でした。
昇進・昇格を逃したスタッフ本人が抱える失望感によって、大きくモチベーションを下げることになったのでした。
このような状況は、多くの企業が直面する課題の一つです。「今年は昇進・昇格すると思っていたのに…」という嘆きの声は、業種や規模を問わず、しばしば聞かれる話ではないでしょうか。
しかし、この「期待していたことが起きなかった」という経験を、本人や組織がどのように捉え、次に活かせるかが重要です。ここで参考になるのが「シュロスバーグの理論」です。
シュロスバーグの理論は、人生の中で経験する『転機』を分析し、それにどのように対応すべきかを示したものです。職場での課題に応用することで、個人が新たな一歩を踏み出すための道筋を見出す助けになります。
転機の三つの分類
シュロスバーグは個人における出来事を「転機」とし、三つに分類しています。
1.予期していた転機(期待していたことが実際に起こる)
2.予期していなかった転機(期待していなかったことが起こる)
3.期待していたことが起きなかった転機
1と2については、いずれも「期待をしていたこと」が前提になります。昇進・昇格を期待していて、実現すれば1に該当します。一方、昇進・昇格をまったく期待していなかったのに実現した場合は2に該当します。
成功時の対処法
1.予期していた転機
期待通りの成果を得た場合、その成功を次にどうつなげるかが鍵です。例えば、期待通りに大型案件を受注できた場合、そのノウハウをチームで共有し、次の提案活動にどのように応用するかが重要です。さらに、成功のノウハウを次のプロジェクトや提案活動に応用しやすい形で整理することで、持続的な成長が可能となります。個人においては、慢心せずに努力を続けることが大事になります。
2.予期していなかった転機
予想外の成功や偶然の成果が得られた場合、その成果をどのように活用するかの迅速な判断が求められます。例えば、顧客から予期しない高評価を受けた際、それを次の提案やサービス改善に結び付けることで、新たな成長の機会を生み出します。柔軟な思考と即応力が成功の鍵となります。個人においては、「たまたま運が良かっただけ」と思い、これまで以上に努力をする必要があります。
3.期待していたことが起きなかった転機
冒頭のケースのように、昇進・昇格を期待していたものの実現しなかった場合、失望感からモチベーションを低下させるスタッフが少なくありません。このような状況をどう乗り越えるかは、組織としての重要な課題です。
期待していた結果が得られなかった場合、まず冷静に原因を分析し、次への改善策を明確にすることが重要です。上司がスタッフと面談を行い、スキルや行動の不足点を具体的に指摘しつつ、次回に向けたアクションプランを示すことで、前向きな取り組みを促すことができます。
また、評価制度に透明性が欠けている場合、それがスタッフの不満やモチベーション低下を招く一因となることがあります。公正で明確な評価制度を整備することは、組織全体の信頼構築において欠かせません。
変化をプラスに変える鍵
シュロスバーグの理論が示すように、「転機」はどのような場合にも本人に変化をもたらすとしています。具体的には人生の役割、人間関係、日常生活、自分に対する見方などの変化になります。
私自身は、変化がプラスになるかマイナスになるかは、前述した評価制度だけでなく、本人の「考え方」に大きく依存すると考えます。
例えば、昇進を逃したスタッフが「今回の結果をバネにして次回に挑戦しよう」と前向きに捉えれば、モチベーションを維持しながら改善策に取り組むことができます。一方、結果に固執し、ネガティブな感情に囚われたままでは、次の行動に踏み出すのが難しくなります。
このような思考パターンは、個人の性格や育った環境による部分が大きいですが、組織として「前向きな考え方」を育む仕組みを整えることで、大きく改善できる可能性があります。
上司・管理職の役割
上司や管理職が果たすべき役割として、以下が挙げられます。
・定期的な面談:スタッフの進捗状況を把握し、具体的なフィードバックを提供する。
・プロセスの評価:成果だけでなく、プロセスや努力を認めることでモチベーションを向上させる。
・前向きなアドバイス:失敗を責めず、改善の方向性を示す。
・協力体制の強化:個人の成長をチーム全体の成長につなげる環境を構築する。
当社では、スタッフが前向きに転機を乗り越えられるよう、組織風土の醸成や具体的な仕組み作りを支援しています。
貴社では、スタッフが前向きに転機を乗り越え、成長に繋げられるような体制は整っていますか?