「南澤さん、全体が見えていないんです…」ーーーある経営者が私にそう打ち明けました。この言葉は、企業経営における課題の本質を突いています。
各部署が懸命に成果を上げている一方で、組織全体が停滞している。こんな悩みを抱える経営者の方も多いのではないでしょうか?まるで、各パーツが高性能なのに動力がかみ合わない機械のようです。
営業成績は向上しているのに顧客満足度が低下している、製造が順調なのに納期遅延が相次ぐ……これらの問題は、多くの場合、“全体設計”の欠如から生じています。
経営者にとって、「鳥の目」として全体を見ることの重要性は、これまでのコラムでもお伝えしてきました。
部分的な視点に囚われていては、正しい判断ができません。全体を俯瞰し、目標に向けた一貫性のある計画が求められます。
ただし、ここでは全体を俯瞰して見るだけでなく、そもそも全体としての設計があったかどうかが重要です。
全体設計の欠如が引き起こす問題
ビジネスで「全体設計」の視点を欠くと、部分的な成功にとどまり、結果的に組織全体が停滞します。
例えば、ある飲食店ではSNS広告を活用し集客に成功しました。しかし、顧客が増える一方で、料理提供の遅れや長い待ち時間がリピート率の低下を招きました。
顧客体験を見据えた設計が欠けていた結果、来店者数は増えたものの、料理提供の遅れが満足度低下とリピート率減少を招き、期待通りの成果にはつながりませんでした。
また、製造業では営業部門が新規顧客の受注を増やしたものの、生産が追いつかず、納期遅延が相次ぎ、顧客の信頼を失いました。
IT企業でも同様の例が見られます。新しいサービスを迅速に開発しましたが、サポート体制が整っておらず、顧客満足度が低下しました。
結果として解約が相次ぎ、期待した収益が実現しませんでした。このように、全体設計の不足は業種を問わず問題を引き起こします。
各施策は、全体設計の中で機能しなければ、大きな成果には結びつきません。部分にとらわれず、他への影響を常に考慮する必要があります。
提案やプレゼンにも必要な全体設計
全体設計は、社内での提案や顧客に向けたプレゼンテーションにおいても不可欠です。
全体設計が欠けた提案は、その価値が十分に伝わらず、採用されにくくなります。例えば、顧客向けのプレゼンでは、全体設計の欠如が結果に大きな影響を与えます。
ある企業では製品の特長を詳細に説明した資料を準備しましたが、顧客の課題や具体的な解決策が欠けていたため、契約に至りませんでした。
一方、別の企業では、顧客の課題を軸にプレゼンを構成し、特長を課題解決に結びつけた結果、大型契約を獲得しました。
ここでは、単に言いたいことを伝えるのではなく、聞き手のニーズや課題を意識し、一貫した流れでストーリーを構成することが求められます。こうしたプレゼンが行動を促し、結果をもたらします。
社内での提案においても、たとえどんなに素晴らしい提案であっても、ヌケ漏れがあるような重要な視点が欠けた全体設計では、提案を通すのは困難です。
全体設計を考えるポイント
全体設計を行う際には、次の3つのポイントを重視する必要があります。
1.全体のバランスはとれているか?
2.各施策が有機的につながっているか?
3.初期段階から一貫性を保ち、ヌケ漏れや重複がなく矛盾がないか?
これらを考慮せずに部分最適を繰り返せば、組織全体としての効率を損ね、成果を逃すことになります。
全体設計を再考する
重要なことは、初期段階で全体設計をしっかりと行うことです。全体設計が欠けていると、矛盾が生じ、非効率が増大します。後から全体最適を試みても、非効率や矛盾を解消するには多大なコストが発生します。
貴社のビジネスでは、全体設計がしっかりとできているでしょうか?部分的な成功にとどまり、全体最適を見失っている部分はありませんか?
たとえば、以下の点を振り返ってみてください
・各部門の目標が、全体目標と矛盾していないか?
(例:営業部門が過剰な受注目標を設定し、製造部門が過剰な負担を強いられていないか?)
・社員全員が、同じ方向を向いて動いているか?
(例:部署間での目標や進捗状況の共有が不足していないか?)
・顧客体験のすべてが一貫しているか?
(例:オンラインと実店舗のキャンペーン内容とサービスが矛盾していないか?)
長期的な成功への鍵
全体設計を見直すことで、組織全体のパフォーマンスは大幅に向上します。一貫性のある計画こそが、長期的な成功を支える鍵です。
ぜひ、全体設計の視点でビジネスを見直してみてください。全体設計を見直し、改善を一歩ずつ進めることで、目標達成への道筋が確実に開けていきます。