「南澤さん、今期の目標まであと少しというところで失速し、達成できませんでした…」ーーーこれは、首都圏で複数の小売店舗を展開する、とある経営者の言葉でした。
前年度の売上から順調に業績を伸ばしていましたが、最後の最後で目標としていた数値に到達できなかったとのこと。このような「あと少しで届くはずだったのに」という経験を、皆さんの職場でも目にしたことはありませんか?
この現象は珍しいものではありません。実際、私が営業の現場で経験してきた中でも、年度や月ごとの目標が「あと少し」で届かなかった例を数多く目にしました。
この「あと少し」で失速する現象は、個人にも組織にも共通する課題です。一体なぜ、こうしたことが繰り返されるのでしょうか?
「あと少し」の落とし穴:油断が生む心理的な罠
昔から伝わる話に、大工さんのエピソードがあります。高所で作業する大工さんが地面に降りる際、最後の「あと少し」で気を抜いてしまうことが原因でケガをすることが多いといいます。
そのため、ベテランの大工さん同士では、地面に降りる直前に「気をつけろよ!」と声を掛け合うのが習慣になっているそうです。
この現象は、仕事やスポーツ、さらには日常生活においても頻繁に見られます。人は「あと少し」という状況に置かれると、無意識に達成感や安堵感を抱き、注意力が散漫になるのです。これが、ケガや目標未達成といった結果を引き起こす原因となります。
例えば、マラソン選手がゴール直前で力尽きるケースや、試験準備中に「あと1日ある」と思って最後の詰めを怠るケースも、同様の心理的落とし穴によるものです。
製造業では、品質チェックの最終段階で油断が起こり、不良品の出荷につながった事例もあります。このように、達成間近で注意力が緩むことで大きな損失を招くことは、どの業界でも見られる現象です。
では、この心理的落とし穴を克服するためにはどうすればよいのでしょうか?
「あと少し」の失速を防ぐ仕組み化のポイント
一つの有効な対策は、「あと少し」の状態を作らないような仕組みを設けることです。例えば、目標達成までのプロセスを細分化し、定期的なチェックポイントを設けることで、達成間近の「緩み」を防ぐことができます。これにより、達成感に伴う注意力の低下を未然に防ぐことができます。
また、目標達成に至るまでの進捗をチームで共有し、一定の緊張感を保つ仕組みも有効です。組織として目標達成を「個人任せ」にするのではなく、全体で進行状況をモニタリングし、必要に応じて軌道修正を行う体制を整えることが重要です。
私がかつて音楽活動をしていた時には、ライブ本番前のリハーサルで意図的に「終わり」を設定しない工夫をしていました。例えば、オープニング曲をリハーサルの最初ではなく最後に行う。
これにより、リハーサルの終了後に達成感を味わわず、むしろ「これから始まる」という緊張感を保つことができました。同様のアプローチは、企業の営業活動にも応用可能です。
達成感が招く危険:次期の準備を遅らせないために
達成感は人を前向きにさせる一方で、その後の行動を鈍らせる危険性も持っています。特に、企業経営においては、達成感に浸りすぎることで次期のスタートダッシュが遅れ、競争に後れを取るリスクが生じます。
たとえば、期末の売上目標をギリギリで達成した場合、チーム全体に「やり切った」という雰囲気が生まれ、翌期の準備が後手に回ることがあります。
この遅れは、競争の激しい市場環境において致命的な結果を招く可能性があります。特に、ゴーイングコンサーン(企業の永続性)が前提となる組織では、このような遅れは致命的な問題となり得ます。
ストック型営業:成果を持続させる仕組み
当社が提供する「ストック型営業」の仕組みは、この課題に対して有効な解決策となり得ます。この仕組みでは、営業活動を単発の「達成」に終わらせず、継続的な成果を生み出す流れを作ることを目指しています。
たとえば、従来型の営業活動では、月次や四半期ごとの目標達成に全力を注ぐあまり、その達成後の準備が疎かになりがちです。一方、ストック型営業では、日々の活動が次期の目標達成につながるよう、長期的な視点で計画が立てられます。これにより、達成感に伴う「一時的な停滞」を防ぐことができます。
さらに、ストック型営業では、目標達成のプロセスを「短期成果」と「長期成果」の両輪で捉え、常に次のステップを見据えた行動を促します。これにより、組織全体のモチベーションを維持しやすくなります。
経営環境の変化が激しい現在、こうした仕組みを整備することは、競争優位性を確保するための重要なポイントです。
貴社では「あと少し」の状況で失速するリスクを防ぐ仕組みが整っていますか?また、目標達成後の次期スタートに向けた計画は万全でしょうか?