第64話:リアルとオンラインの使い分け

  

「南澤さん、採用時の面接にオンラインを使用することについてどう思いますか?」ーーーこれは、全国に複数の店舗を展開する企業の経営者の一言でした。新たな人材を効率よく採用したいという期待と、候補者の人柄や適性をしっかり把握したいという課題が込められていました。

 

コロナ禍以降、多くの企業が採用面接や商談でオンラインを取り入れました。接触を避ける必要性が高まる中で、オンラインツールの普及は加速し、業務の進め方を大きく変えました。

 

私自身もオンラインツールをいち早く活用し、業務の効率化を図ってきました。特に、遠隔地の顧客とのやり取りが容易になったことは大きな変化となりました。これまで訪問が必要であった場面でも、必ずしも現地に行く必要がなくなったのです。

 

例えば、これまで片道数時間かけて訪問していた遠方の顧客とも、オンラインで手軽に打ち合わせが可能になり、移動時間を別の業務に充てることができるようになりました。この変化によって、対応できる顧客の範囲が広がり、自分の商圏も大きく拡大しました。

 

簡単な打ち合わせや状況確認では、オンラインが絶大な力を発揮します。これまで移動にかかっていた時間を、別の生産的な時間に使えるようになったのです。これを活用しない手はありません。上手に使うことで、多くの時間を生み出すことができます。

 

しかし、オンラインには限界もあります。たとえば、「現場をこの目で確かめる」という点では、オンラインでは十分な情報を得られません。製造業のコンサルティングなどでは、現場を訪れて初めて気づく問題点が数多くあります。

 

実際に、あるクライアント企業では、現場の清掃状態や製品の保管状態、作業の動線などに課題があることが現地で判明し、その後の改善につながりました。オンラインでは見逃されていた可能性が高い事例です。

 

また、信頼関係の構築においても、リアルな対面の価値は非常に大きいです。人と人とのコミュニケーションでは、言葉以外の情報が多大な影響を及ぼします。声のトーンや表情、身振り手振りといった視覚情報が「無意識の信頼」の土台を作ります。

 

いわゆる「メラビアンの法則」によれば、コミュニケーションにおける言葉そのものの影響はわずか7%であり、言葉以外の情報が圧倒的な影響を与えるとされています。さらに、相手との距離感や雰囲気も重要な要素です。

 

例えば、話すスピードや声のトーンを相手に合わせたり、相手の動作に調和したコミュニケーションを取ったりすることで、「無意識の信頼の蓄積」が自然に生まれます。これこそが、信頼関係構築の大きな要素であり、オンラインでは難しいと感じる部分です。

 

このように、関係性の構築に必要な「無意識の信頼の蓄積」という点では、リアルに勝るものはありません。初回の面談で関係性を構築し、継続的な取引につながった経験は私自身何度もあります。

 

当然のことながら、リアルで会って話すのと、オンラインで話すのとでは、関係構築の効果には大きな差が生まれるのです。

 

特に接客業の経験が豊富な方ほど、このように感じる人は多いようです。オンラインでは本音が見えにくい、信頼できる人かわからない…、といった声が聞かれます。

 

つまり、信頼関係の構築という点において、リアルはオンラインと比較して有利です。意図的にリアルの対面を活用する必要があります。

 

一方で、一度築いた信頼関係を維持するやり取りでは、オンラインが非常に効果的です。業務の進捗状況の確認や短い打ち合わせなどであれば、移動時間やコストを削減しつつスムーズに進めることができます。

 

そのため、そのような顧客や社内でのやりとりにおいては、「オンライン」を適切に活用すべきです。移動時間の削減や場所を選ばない利便性において「オンライン」は圧倒的に有利となります。

 

繰り返しになりますが、一度信頼関係が出来上がった相手とのやりとりにおいて、オンラインでも問題ありませんが、信頼関係が構築されていない相手とのやりとりにおいては劣っていると言わざるを得ません。圧倒的にリアルでのやりとりが有利です。

 

たとえば、初回商談や重要な意思決定はリアルで行い、日常的な業務確認やフォローアップにはオンラインを活用することで、効率と信頼構築を両立できます。

 

このように、それぞれの特性を認識した上で、戦略的に「リアル」と「オンライン」を使い分けることが重要です。目的に応じて適切に活用することで、時間やコストを最大限に有効活用しながら、関係性を深めることができます。

 

貴社では、「リアル」と「オンライン」の特性を理解し、効果的に活用する仕組みを整えていますか?