「南澤さん、東京都のカスハラ条例が来年から施行することもあり、カスタマーハラスメントが話題になっていますが、当社でも何か対策をする必要があるでしょうか?」ーーーこれは、複数の店舗を都内で経営する経営者の一言でした
近年、カスタマーハラスメントは、パワハラやセクハラに次いで多くなっており、パワハラが減る一方で増加傾向にありますが、約7割の企業が未対応と言われています。カスハラ条例に関しては、東京都だけでなく、同様の動きは全国的に広がることが予想されます。
厚生労働省が出している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、カスタマーハラスメントを、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」とみなされています。
労働者の就業環境が害されるという点では、他のハラスメントと定義は一緒です。顧客からの要求に妥当性がなく、社会における常識から見て過大であったりするような不相応な要求によって、従業員の働く環境が害されるものをカスタマーハラスメントとしています。
つまり、過大な要求や常識外れの対応が、従業員の就業環境に悪影響を与える場合がカスハラとみなされます。ちなみに、顧客には、実際に商品・サービスを利用した者だけでなく、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含みます。
私自身の経験では、営業時代を振り返るならば、今で言うところのカスタマーハラスメントに該当すると考えられることも正直なところありました。罵声を浴びせられたことや監禁されたこともあります…。
しかしながら、当時の自分はまだ経験が浅く、顧客への対応が不十分であったために自らそのような結果を招いたと言わざるを得ません。顧客対応の未熟さが原因であり、自業自得というやつです。
店長時代に入り、さまざまな顧客対応を行いましたが、おかげさまでカスタマーハラスメントに発展するような事例はほとんどありませんでした。これは、クレームへは即介入、即時解決をモットーとした店舗運営が功を奏していたと考えています。
店長は、基本的には店舗における“最後の砦”です。問題を必ず解決するという心構えにより、あらゆる問題を解決できると信じていました。
一方で、このような気概のない店長の店舗では、自店で問題を解決できずに本部に任せるようなこともよくある話です。そのような店舗の店長はいつも決まっています。
個人的な考えでは“箸にも棒にも掛からぬような顧客”、つまり誰がどう対応してもカスハラにつながるような顧客は1%にも満たないのではないかと考えています。もちろん、業種・業界によって誤差はあると考えます。このような顧客には毅然とした態度が求められます。
つまり、カスタマーハラスメントに関しては、基本的には顧客対応の仕方でほとんどが防げるというのが私の結論です。多くは顧客対応の不手際から自ら招いている結果といってよいでしょう。
顧客対応においては、“隙だらけ”では、カスタマーハラスメントに発展する可能性が高くなります。汚い店舗やスタッフの不十分な接客が、顧客の怒りに火をつけてしまうのです。
例えば、店舗でいうなら、綺麗に整理整頓されている、スタッフの身だしなみが乱れていない、丁寧な言葉遣い、笑顔で元気に目線を合わせた挨拶(これができるスタッフは実に少ないです)、規則やルールを盾にすぐに「できません」と答えたりしないなど、多くは顧客満足度を上げる対応をすれば防げるものです。
顧客満足度向上のための工夫がカスハラ防止にもつながるのです。整理整頓された店舗や接客態度の改善が大事になります。特に「笑顔や挨拶」などの対応は、顧客との信頼関係構築に必要不可欠です。
仮に、企業側の一方的なミスや不手際などにより、顧客にご迷惑をおかけした時においても、対応としては同じです。誠実な対応によって、カスタマーハラスメントに発展することは防ぐことができるでしょう。
一方で、“箸にも棒にも掛からぬような顧客”に対しては、対策マニュアルなどを作成するのも一つの方法です。
暴力行為に関しては、カスハラ以前に犯罪行為なので、警察に通報は当然ですが、具体的には、電話の時間は30分以内に制限することや、同じ内容の繰り返しについては、理由を告げて電話を切るというようなことです。このようなマニュアル作成により、従業員のメンタルに悪影響を及ぼすことを防ぐ効果があります。
しかしながら、忘れてはならないのは、顧客視点を離れたカスタマーハラスメントの対策はあり得ないことを肝に銘じておくことです。
本来、顧客からのクレームや不満は、自社の商品・サービスの改善につながる大事な声です。世の中の多くの新商品や新サービスはこれによって生まれてきたと言えるでしょう。
カスタマーハラスメントにおける対策も、単に一部の顧客が悪いと考えるのではなく、自社の顧客対応力を上げる良い機会として捉えれば良いのです。顧客の声を大切にし、顧客満足度を高めるための対策として、カスタマーハラスメント防止策を活かすのです。
このように、顧客満足度を上げるために、カスタマーハラスメントの対策を行なうという逆転の発想で行うことが重要であると考えます。カスハラを問題視するだけでなく、前向きな価値創造の機会と捉えるのです。
貴社では、カスタマーハラスメントに対する具体的な対策は取っていますか?顧客満足度を上げるために、どのような工夫をしていますか?