第57話:勝手な決めつけ

 

「南澤さん、まさか、あの方がそんな有名な方だとは思いもしませんでした…」ーーーこれは、とある自動車販売店の経営者の一言でした。

 

なんでも、そのお客様は有名な経営者で、これまでメディアにもよく取り上げられている人物だったそうです。しかし、スタッフはまったく気づかず、特別扱いせず、いつも通りの丁寧な対応をしていたとか…。

 

私自身もかつて、契約の際に初めてそのお客様が有名な経営者であったと知ったことがありました。実際、そのような有名な方であっても、特別扱いせずに丁寧に対応することが重要だと感じました。もちろん、例外もあるのは事実です。

 

26年間営業を経験していたので、このようなことは、経営者に限ったことではなく、芸能関係の方や有名な研究者など、実にさまざまな方がいらっしゃいました。

 

この場合、特別扱いしなかったことが、むしろ好印象を与え、信頼関係を築くことができたのです。知らなかったことが良い結果を生んだパターンです。特別視せず普通に対応できたことが良かったわけです。

 

一方で、勝手な決めつけによって機会損失が生まれる場合も、残念ながら実に多くあります。

 

例えば、外見などの第一印象の「勝手な決めつけ」により、スタッフ側が勝手に買わないと判断するようなことです。つまり、顧客の外見を見ただけで、購買意欲がないと判断してしまうことです。

 

このような勝手な決めつけが、ビジネスにおいて大きな機会損失を生むことが少なくありません。顧客の外見や第一印象だけで判断してしまうことで、本来得られるはずの大きな売上や顧客との信頼関係が失われてしまうのです。

 

例えば、ある高級車の販売店では、作業着を着て来店した顧客に対して、スタッフが『この人は買わないだろう』と判断し、冷たい対応をしてしまった結果、顧客は不快感を覚え、他の店舗で即購入したという話を耳にします。

 

かつて、私の顧客も作業着で某自動車メーカーの販売店に高級車を買いにいったところ、実際にまったく相手にされず腹を立てたそうです。

 

そのまま、別のメーカーの販売店に行き、その場で購入を決めたというような話を、これまで複数の方から何度も耳にしています。

 

このようなことは、販売・営業のスタッフが、顧客を外見だけで判断し、買わないという「勝手な決めつけ」によってそのようなことは起きています。リスク管理とは違い、むしろ顧客対応の質が問われる部分です。

 

私自身、この手の話を顧客からさんざん聞いていたため、「外見だけでは判断しない」ということを肝に銘じていました。

 

確かに、人は第一印象が大事と言いますが、それは服装などの外見だけでなく、顧客との会話や態度から得られる全体的な印象が重要です。外見だけで判断することとは違います。あくまで丁寧に話を聞いた上で、総合的に判断するべきなのです。

 

そのため、スタッフには常に、外見や第一印象だけで顧客を判断しないよう教育することが重要です。実際に、顧客のニーズや真意を理解するためには、表面的な情報にとらわれず、丁寧にヒアリングを行う姿勢が不可欠です。

 

そして、「勝手な決めつけ」は、外見にはとどまりません。一例をあげるならば、自動車販売においては、「購入時期」が、その最たるものかもしれません。

 

新車を購入したばかりだから、まだ買わないだろうという「勝手な決めつけ」によって実に多くの機会損失が生まれているのです。

 

ある販売スタッフは、新車を購入して間もないお客様が訪れた際に、『どうせ買わないだろう』と考え、フォローを怠ったそうです。しかし、実際にはその顧客は親族に車を探しており、他の店舗で即購入が決まってしまいました。

 

このような機会損失を防ぐ最良の方法として、当社が推奨する「先行受注」という手段が考えられます。この「先行受注」は、勝手な決めつけとは真逆である「合意の決まり事」と言えます。

 

先行受注は、勝手な決めつけでは決してありません。あくまで顧客との間の「合意の決まり事」によって成り立っています。

 

これによって、スタッフが勝手に判断するのではなく、顧客の意思を尊重した形での受注が可能になります。

 

このようなことを実現するためには、顧客を外見で判断せず、まずはしっかりとコミュニケーションを取ることが大切です。そのためには、常に顧客のニーズに耳を傾け、表面的な情報にとらわれないことが重要です。

 

また、コミュニケーションをとるために必要なスキルを学ぶ必要があるため、育成の仕組みが必要となります。日々の業務の中での学びや研修を通じてコミュニケーションスキルを向上させることが不可欠です。

 

貴社では、スタッフの「勝手な決めつけ」が原因で、貴重な機会を逃していることはありませんか?先行受注のように、顧客との間の「合意の決まり事」によって、安定した受注を獲得できていますか?