「南澤さん、当社の営業はモチベーションが高くしっかりと数字を上げます。ただ、あまり世間一般に必要とされている知識などが欠けている気がして、このままで大丈夫なのかと思うことがあります…」ーーーこれは、売上を10年で3倍まで成長させた経営者から出た一言でした。
これまで売上を順調に拡大してきたものの、この先も続くのかどうかと色々考えているうちに、このようなことを考えるようになったというのです。
製品の優位性と営業力
この会社の場合、製品が他社よりも優れているため、総合的な営業力が低くても売上を上げることが比較的容易にできていました。自社の製品を他社との比較の中でしっかりとアピールできれば、確実に売上につながっていきます。このような状態は、ほぼ「指名買い」と言えますし、商品知識が重要です。自社の商品、他社の商品を知っていれば、どんな人でもそれなりの結果が出せます。
しかしながら、このような状況をつくれている会社は実に少なく、大抵は市場に商品力の高い他社の製品があります。仮に今が優れていても技術進歩のスピードが速い中では、長く続くことは難しいです。
そのため、総合的な営業力としては、仮に製品が劣っていても売れる営業を目指さなければなりません。自社の優れているところをアピールすることはもちろん、それ以外の総合的な営業力が重要となります。
これには、顧客との会話による関係性の構築も含まれます。「指名買い」が起きない場合は、相対的に見込み顧客を育成し、関係性を構築していく割合が増えます。
顧客との関係性構築
実際に顧客との会話で関係性を構築していく場合には、商品知識以外の知識も必要になります。業界知識だけでなく、趣味の話や流行の話など、顧客によってそれは変化します。
そのようなすべての話を会得するのは土台無理な話ですが、良好なコミュニケーションを行っていく中で最低限知らなければならない常識的な話は必須となります。例えば、その知識が広く、深ければそれなりに有利になりますが、残念ながら必ずしもそうはなりません。
これは、営業スタッフの置かれている立場、状況によっても異なります。さらに、厄介なことに顧客によっても異なります。
広い知識と深い知識の重要性
例えば、ベテランスタッフであれば、ある程度広い知識、深い知識を期待する顧客が多いのは推測できると思います。あまり広くものを知らないベテラン営業スタッフに対しては、顧客が不信感を持つリスクも出ます。冒頭の経営者が心配していたのが、このようなケースです。このような状況にならないためには、会社として、店舗として学ぶ仕組み、組織風土が必要となります。
一方で、新人営業や若手のスタッフの場合には、広い知識はさほど求められません。それよりも、知らないことを素直に認めて顧客から教わる姿勢の方がよっぽど売上につながります。
実際に、ものを知らない営業スタッフが、熱心に顧客の話を聞くことで売上につながることは実に多いのです。知らないからこそ熱心に聴き、熱心に聴くからこそ顧客も一生懸命に話す、こんなことが普通に起こります。また、営業の未来に期待して購入することもあります。こちらもかなりの割合です。
このように、知らないことで得をすることが営業の世界ではあります。ただし、商品の優位性と同様に、こちらも残念ながら長く続きません。年齢を重ねれば、顧客の期待値が高まるからです。
また、必ずしもそのような顧客ばかりではありませんので、基本的には様々なことを学び広く知ることは営業にとって重要になります。
知識や知っていることの使い分け
ただし、話は戻りますが何でも知っていれば良いわけではありません。時には知らないフリをすることが重要だからです。顧客によっては、同じ話を何度もする場合もあります。このような時でも、初めて聞いたように熱心に聞けるかどうかが重要となります。
色々と情報を提供したい顧客についても、知らないフリをすることで熱心に説明してくれます。ある意味ではウソをつくことになりますが、これは良いウソです。日常のコミュニケーションでも同様に、仮に知っていることでも、夫婦間や恋人同士、気の合う間での笑い話や得意話、自慢話でも、初めて聴いたように聴けるかは重要です。
まとめ
このように、知識があるだけでは十分でなく、状況によって使い分ける能力・スキルが総合的な営業力の要素となります。前提として、幅広い知識を持ちながらも、顧客や状況に応じてそれを適切に使い分けることが重要です。何でも知っていれば良いというものではありません。
貴社では、幅広い知識、深い知識を身につけられるような仕組みがありますか?そのような知識を使い分けることができる人材を育成していますか?