第45話:作業の質とスピードを劇的に高める方法

  

「南澤さん、仕事の質とスピードを両方高めるのは難しいですよね…」ーーーこれは、とある整備工場の工場長の言葉でした。

 

作業スピードを無理に速めようとすると、質が低下する。これは、すべての作業に共通する根本的な問題と言えます。

 

私が経験したカーディーラーにおいては、整備工場での作業は、安全を担う車という性質上、質が第一です。

 

一方で、お客様を過度に待たせてはいけないという意味で常にスピードとの戦いでもありました。作業の質とスピードの両立は極めて重要な問題でした。

 

作業の質とスピードの両立は、工場などのスタッフだけの問題ではありません。単純に作業ということであれば、誰しもが何らかの作業を抱えている人がほとんどではないでしょうか?

 

私自身は、営業時代、店長時代に、作業の質とスピードの両方を高めることにこだわりを持って取り組んできました。

 

一見すると単なる単純作業でも工夫次第で劇的に質やスピードが高まることを知っていたからです。そして、それが成果につながっていたからです。

 

かつて、クラシックギターを毎日欠かさず弾いていた頃、師匠の大谷環先生から「我慢できないくらいゆっくり弾く」という方法を教わりました。

 

通常、特にテンポが早い曲では、練習を積み重ねていくと速度を高める方向に意識がいきます。

 

その中で、「我慢できないくらいゆっくり弾く」というのは簡単のようで、実は非常に難度が高い行為です。そして、これを実行することで、精神的にも技術的にも驚くほど鍛えられます。

 

一見すると遠回りのようなこの行為ですが、まさに「急がば回れ」の練習方法でした。この方法を知ってから劇的にクオリティが高まりました。

 

しかしながら、この鍛錬の基本とも言えるこの行為を意識的にやっている人は実に少ないのです。

 

技術的なことで簡潔に言うと、「無駄を究極的に省く」ことが、我慢できないくらいゆっくり弾くことで可能となります。

 

「最短距離を得るには普通のスピードで実施していたのでは身につかない」のです。徹底的に無駄を省くためには、通常では考えられないスピードに落とすことで、無駄に気づき、それを省くことが実現することができます。

 

そもそも、通常スピードでは気づくことができないものに気づくというのがポイントになります。

 

どんな作業でも、ある程度身につくと多かれ少なかれ自己流になっていることが多く、動きに無駄が発生していることが多いものです。

 

その無駄を、あえてスピードを劇的に落とすことで、気づき省くことを意識的に行うことで、劇的に質とスピードを高めることが可能となります。

 

例えば、キーボードのタイピングなどの作業でも、指の動きに無駄があると効率が落ちます。

 

指や手、腕、足、体を使う作業において、このような無駄を省くことが劇的に作業の質とスピードを高めることにつながります。

 

そして、1万時間の法則が示す通り、正しい方法で作業を続けるとある時、臨界点を通過した段階で飛躍的な変化を遂げます。

 

このような無駄を省く行為ですが、実際に業務に追われていると中々取り組むことが難しいこともあります。

 

定期的に自身のスキルを見直す機会、学ぶ機会、スキルを向上させる機会があればこのようなことに気づき改善する機会も増える可能性があります。

 

そして、個人がこのような考え方やスキルを身につけていれば現場全体の改善につながります。

 

自身のスキルを定期的に見直し改善を続けていく。このようなことを一人一人の個人が身につけることで組織は大きく変化していきます。

 

例えば、5S活動においても、無駄を省く考え方が身につくことで効率が上がります。最適な導線の確保も容易にできるようになるはずです。

 

無駄を省く行為は、5S活動でいう「整理」にあたります。必要のないものをいかに捨てていくかは非常に重要です。 

 

逆に何を残さなければならないかという問題は、企業において非常に重要な問題です。捨てることが重要であるとわかっているからこそ、何を残さなければならないかを正しく判断できます。

 

また、常に無駄を省くことを続けることで、新しいことに取り組むことができやすくなります。無駄ばかりの現場では、新しいことに取り組むのは難しいです。

 

このように、単に個人一人の作業一つとっても、実は企業全体に影響を及ぼす行為ということになります。それに対して戦略的に取り組むことができるかどうかで大きな違いが生まれます。

 

個人の意識が変わることで、組織全体の風土・文化に影響を及ぼし、それらを醸成していきます。

 

貴社では、スタッフが自身のスキルを見直す機会を提供していますか?そのような組織風土・文化を醸成していますか?