第37話:店舗経営に必要なバランス感覚

 

「南澤さん、どちらかを立てるともう一方が不満を持つような状況では、一体どうしたら良いのでしょうか?」と、ある店舗経営者に質問されました。

 

私が経験した自動車ディーラーでは、このような問題は常に起こり得ます。そしてこれは、あらゆる業界で共通して見られる問題です。開発部門と製造部門、製造部門と販売部門など、部門間の問題は避けて通れません。

 

例えば、自動車ディーラーでは、整備スタッフと営業スタッフがそれぞれ異なる目標と制約の中で働いています。整備スタッフは厳密な時間管理が求められ、一方で営業スタッフは柔軟な時間配分が許される場合が多いです。この違いが誤解や衝突を生む原因となります。

 

宿泊業の例では、料理長と管理部門の対立があります。料理長は顧客満足を追求し高品質な料理を提供しようとしますが、管理部門はコストを抑えることに注力します。

 

店舗でも、販売・営業スタッフと経理・事務、仕入れ・在庫管理スタッフなどの間で立場の違いによる問題が日常的に発生します。

 

このような部門間の立場の違いによる問題を放置すると、部門間に大きな溝が生じ、組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。問題が深刻化する前に、適切な対応が求められます。

 

店舗経営者としては、どちらか一方に偏ることなく、バランスを保つことが必須です。原理原則や譲れない信念などを判断基準とし、それを基に合意形成を目指す必要があります。

 

このような場合、「バランス感覚」がとても重要となります。これは、「論語」に含まれる四書の一つである「中庸」にも示されている通りです。「中庸」とは、過不足なく調和がとれているという意味があります(その他にも重要な解釈があります)。

 

私自身、そのようなバランス感覚を身につけてから店舗をうまく回せるようになったという認識があります。店長になったばかりの頃は、営業出身ということもあり、どこか目線が営業目線に偏っていました。そのため、営業部門とサービス部門の軋轢を生んでしまい、色々と苦労をしました。

 

そんな苦労の中で、試行錯誤を繰り返し、店長になってから1年くらい経ち、やっとバランス感覚というものがわかるようになりました。

 

実際に部門間の立場の違いによる問題が発生した時には、お互いの立場を理解することからすべてが始まります。それぞれの言い分を丁寧に聴く必要があります。そのような場を設けて運営するのが、店舗経営者の重要な役割でもあります。

 

個々のスタッフ間の話で言うなら、異なる部門間のコミュニケーションを促進するために、アサーション(自己表現技法)のようなコミュニケーションスキルのトレーニングが有効です。アサーションでは、相手を尊重しながらも、自身の意見や必要をはっきりと伝えることが重要となります。

 

しかし、そのような個々のトレーニングよりも、お互いの立場を理解するための場を設けることが大事です。

 

双方の立場を理解し、認め合う文化を育てることが、組織全体の調和と効率を高める鍵です。そのためには、定期的に意見交換の場を設け、開かれたコミュニケーションを奨励することが不可欠です。

 

そのような場をつくることがまず必要です。場がなければ、そのような機会をつくることが極めて難しくなります。

 

その上でリーダーはバランスをとります。時には矛盾することを、統一することが求められます。このような場合、きわめて難しい「バランス感覚」が求められます。

 

そのような「バランス感覚」を身につけるためには、管理者の育成の仕組みが必要ですが、育成には当然のことながら時間がかかります。そのため、早い段階で人材育成の仕組みを構築する必要があります。

 

特に、難しい決断をする場合においても、異なる立場、双方を納得させる必要があります。決断に対しての責任を逃げない姿勢があればこそ、納得してもらえます。

 

そのようなリーダーのもとだからこそ、スタッフ一人一人は成長を実感し、組織に対する貢献意欲を高めることができます。

 

また、共通の目標を常に共有することも重要な要素です。お互いが同じ方向を向いていくためには、共通の目標が欠かせません。そのためには、共通の目標を共有できる仕組みが必要となります。

 

バーナードの「組織の三要件」でも、共通の目標、貢献意欲、コミュニケーションが必要であると言われています。

 

このように、部門間のバランスをとるためには、共通の目標、貢献意欲、コミュニケーションの促進、バランスをとることができるリーダーの育成が欠かせません。

 

貴社では、どのようにして部門間のバランスを保っていますか?適切な場を設けて、それぞれの立場を主張し合う機会を提供していますか?そして、そのバランスをとるリーダーをどのように育てていますか?

 

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