第24話:ピンチをチャンスに変える方法

 

「南澤さん、大手の仕事が急になくなってしまい、本当に大ピンチです。どうすればいいでしょう…」―――これは、かつて私が支援した製造業の企業からの相談でした。しかし、このような困難は、実際にはどの企業も直面する可能性があります。

 

企業は、一社に依存せず、リスク分散を目指すべきですが、業種や業界によっては、それが難しい場合もあります。

 

実際に、大手顧客からの仕事が突如途絶える以外にも、自然災害や人為的災害といった、企業が直面するリスクは多岐にわたります。東日本大震災のような大規模災害や、BSE問題、不正問題、そして最近ではSNSによる炎上まで、企業が直面するピンチは多種多様です。

 

そして、何らかの理由で売上が大幅に低下するような突然の需要減少が発生した場合、企業は迅速に戦略を練り、対応する必要があります。このようなピンチに直面した際、考えられる戦略は多岐にわたります。

 

短期的な対策としては、人員の配置転換が挙げられます。需要が減少した部門から他の部門へ人員を異動させ、余剰人員を有効活用するのです。

 

一方で、海外の企業では、レイオフ(一時解雇)を速やかに実行する場合がありますが、日本ではそこまで徹底した対応は一般的ではありません。コスト削減を目的とした無駄の省略は合理的ですが、日本の組織文化には馴染みにくい側面があります。

 

しかし、人を単に遊ばせるのではなく、他部門で活用する方が望ましいとしても、それが中長期的に最適な解決策とは限りません。

 

実際に、中小企業が突然の需要減少というピンチに直面した際、いくつかの企業では多能工化を推進しました。これは、個々の従業員が複数の業務や作業をこなし、組織内の人材を幅広いスキルを持つ多能工として育成する戦略です。

 

対照的に、「単能工」は特定の仕事に特化しており、その仕事がなくなると活躍の場を失います。特に経験が浅い人にとっては、一つの作業しかできないという状況に陥りやすく、「手待ち」の状態が続くことを意味します。

 

多能工化は、繁閑に応じて柔軟に対応できるようになるだけでなく、一つの仕事を複数の人で処理できるようになり、「手待ち」時間を減少させる効果があります。結果、生産性が向上し、それまで以上に多くの仕事をこなすことができるようになります。

 

いいことづくしとも言える多能工化ですが、例えば、製造業の企業でいざ進めようとしても、普段、工程がフル稼働している状態では、ベテランの熟練工は「手待ち」がありません。そのため、ベテランの熟練工は、技術を継承する余裕もありません。

 

よって、需要減少のようなピンチの時をチャンスと捉え、技術の伝承、育成を強化し「多能工化」を実現したわけです。これまで単能工として一つの工程しかできなかった場合と比較して大きな強みとなります。

 

いざという時に、負荷が集中していた部分を分散させることができるため、需要が回復した際には、以前よりも大きな売上を実現することができるようになります。

 

星野リゾートのマルチタスク化は、多能工化の具体的な成功例です。星野リゾートは運営特化型の経営で知られ、従業員がマルチタスクをこなすことで、効率的な運営を実現しています。

 

朝の調理補助から始まり、チェックアウト業務、客室清掃まで、社員が様々な業務を一日でこなします。これにより、全員が必要なスキルを持つことで、業務を効率的に回すことが可能です。

 

多能工化は製造業に限らず、事務職にも応用可能です。特に、繁閑の差が激しい部門を持つ企業では、この戦略が大きな強みとなります。

 

突然の需要減少のような場合には、通常業務に忙殺されている部門の業務を、他の部門が学ぶ絶好の機会となります。これは、単に需要がなくなり暇になった人を他に回すのではなく、まったく逆の発想です。また、仕事を特定の人につけ過ぎないことで、組織の硬直化を防ぐことも可能になります。

 

注意点は、個人のキャリア形成も考え、個人の価値観を尊重する必要があります。単なる業務の押しつけでは、決して上手くいきません。

 

また、人材育成以外にも、これまでになかった新しい仕組みを導入することやIT化やデジタル経営の推進により、企業の成熟度を高めることも考えられます。これには、マインド、ガバナンス、ITの利活用、IT環境を整えることが含まれ、企業のIT成熟度を全体的に高めることが目指されます。

 

ピンチという点では、私の経験上、営業の現場では様々な予期せぬ困難、ピンチが訪れます。特に、クレーム対応は、まさに「ピンチをチャンスに変える」場面の典型です。適切な対応により、強固な顧客関係を築き、中長期的な発展につなげることができます。

 

そのような場合、基本的には、顧客の不満を丁寧に聴き、問題を解決し、再発防止策を打ち、謝罪を行うわけですが、その過程で顧客との信頼関係が回復し、より強固なものとなっていきます。

 

素早い対応はもちろんのこと、ここでは丁寧な対応が求められます。解決までに、顧客とは、訪問、電話、メール、手紙等での接触機会が得られるわけです。これは決して売り込みでないため、嫌がられることもありません。誠実な姿勢と対応により、顧客との関係が強化されます。

 

このような対応は、短期的な売上につながることはなくても、優良顧客を増やすという、自社にとっては非常に重要な意味を持つことになります。顧客との関係が強固になれば、それは自ずと自社の中長期的な発展につながります。まさに、「ピンチはチャンス」です。

 

最終的に重要なのは、ピンチが訪れた際に、ただ単に短期的なコスト削減に走るのではなく、中長期的な視点で戦略を練り、需要が回復した時にはV字回復を実現できる体制を整えることです。これは、単なるプラス思考ではありません。

 

貴社では、ピンチが発生した時に中長期的な視点で戦略を立案できますか?そのための仕組みが整っていますか?