第21話:「真似すること」を評価する危険

 

「南澤さん、うちの社員は積極的に何か「新しいこと」に取り組もうとしないので困っています」ーーーこれは、ある企業の社長が直面している困難を表す言葉です。

 

この問題は、多くの企業で共通して直面しているものかもしれません。特に成熟した事業において、この傾向は顕著になります。

 

現代のビジネス環境において、成功のための「真似る」行為の価値と限界は、どの組織にも共通する重要なテーマです。成熟した市場では、企業はしばしば、新しい挑戦よりも、確実性が高く実績のある「既存の成功モデル」のフォローが奨励されがちです。

 

このアプローチにより、いわゆる横展開などを通じて、成功事例を共有し、効率的に素早く成果を上げることができます。特に多店舗展開している企業にとっては有効です。

 

これは、真似ることを肯定し実行できる企業風土においては特に効果的です。この段階では、成果に焦点を当て、真似ること自体よりも、より優れた改善を重視することが大切です。真似るだけではやはり限界があります。このアプローチは効率的な成果達成を可能にする一方で、創造性の欠如を招き、企業の成長機会を制限するリスクも孕んでいます。

 

真似ることは、個人レベル、特に営業スタッフにおいては非常に重要なことです。あらゆることを真似ることで、早く成果を上げることができます。そして、実際に遠慮せずに真似をするスタッフはどんどん成果を上げる傾向にあります。ここでも大事なのは真似をした後にどう改善していくかです。

 

成果を上げ続けるスタッフの傾向としては、自分なりに改善していく意識が高いことです。決して「猿マネで終わらせない」という意識があると言えます。

 

私の店長時代も、他のメーカーのカーディーラーの成功事例を積極的に取り入れました。良いと思ったことはかなり図々しく真似をしました。私は、それらをただ真似るだけではなく、「どうしたらもっと良くできるか」を常に考えていました。そして、このような意識は、競合他社と差別化し、顧客満足度を高める結果をもたらしました。

 

一方、成長している市場においては、相対的に成熟した市場と比べて「新しいこと」に取り組む機会が豊富にあります。にもかかわらず、「新しいこと」に取り組む企業文化の欠如が多く見られるのもまた事実です。

 

そのような企業では、日常の繰り返し仕事に没頭するあまり、改善行動もままなりません。成長している市場においてさえ、このような状況ですから、成熟した市場では「新しいこと」に取り組むことの難しさがより浮き彫りになってきます。

 

企業が「既存の成功事例」の真似ること自体は有用であり、大変重要です。特に真似る文化が根付くまでは「真似をすること自体を推奨する必要」が出てきます。

 

しかし、重要なのは、真似る文化が根付いた後、いつまでもそれに固執していると、企業が停滞状況に陥る危険性があるということです。真似る文化が根付いてからは、真似ること自体を推奨していてはダメだということです。

 

この段階では、企業は「新しいこと」に取り組む文化を醸成し、それを正当に評価することが必要となります。特に、若い世代の人材獲得が困難な現代においては、このような文化がなければ、企業は急速に衰退するリスクがあります。

 

真似自体は決して悪くないものです。それを通じて企業が素早く成果を上げることは重要です。しかし、より重要なのは、真似た後にどう改善するかです。さらには、「新しいこと」に挑戦するかであり、企業はそれを積極的に奨励しなくてはなりません。この段階では、真似ることばかりを評価してはいけません。

 

企業文化やリーダーシップのスタイルは、この問題に深く関わっています。市場は常に変化し、消費者のニーズも進化し続けているため、過去の成功モデルに固執することは、時代遅れになるリスクを孕んでいます。経営者、店舗経営者は常に「新しい価値」を提供するという意識のもとで取り組んでいく必要があります。

 

「新しい価値」を提供するために、具体的には、全く異なる業種、業界から真似る手法があげられます。私自身も店長時代に、美容業界、飲食業界からヒントを得て色々と試しました。特に都心の店舗を経営するにあたっては美容業界で得た知見が役立ちました。全く異なるところからヒントを得るのは今も昔も大変有用な方法です。

 

企業が持続可能な成長を実現するためには、革新的な試みを奨励し、実験的なアプローチを支持する文化が必要です。プロジェクトを立案したり、社内でのコンテストをしたり、「新しいこと」を奨励する必要があると、店舗経営コンサルタントの私は考えます。

 

特に若い世代の人材は、新しいアイデアや方法に対して開かれた姿勢を持っており、彼らの創造性と情熱を引き出すためには、伝統的な方法を見直し、新しい方向性を模索することが重要です。繰り返し仕事に没頭させるだけでは、彼らの能力を活かすことができません。

 

結論として、企業は単なる模倣を超えて、「新しいこと」への挑戦を奨励し、その文化を育てることが重要です。このようにして、企業は変化する環境に柔軟に対応し、将来にわたって持続的な成長を達成できるのです。このような文化の醸成は、長期的な競争力を維持し、新たな成功を生み出す鍵となります。

 

貴社では、そのような文化を醸成できていますか?長期的な競争力を維持する仕組みがありますか?

 

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