◆第110話:カスハラと言う前にやるべきこと ~できないとわかっていても確認する意味~

 

「南澤さん、先日、うちの若いセールスがお客様を怒らせて、決まりかけていた商談が流れてしまったんですよ…」ーーーこれは、ある自動車販売店の店長の一言でした。

 

似たような経験をお持ちの経営者や店長は多いのではないでしょうか。南澤自身も店長時代、同じような光景を目にしてきました。

 

お客様から値引きを求められた際、若い営業スタッフほど「これ以上はできません」と即答してしまいがちです。

 

もちろん、安易に値引きに応じないこと自体は間違いではありません。けれども、多くのお客様は、その“即答”に強い拒絶感を覚えます。

 

たとえ結果が変わらなくても、「念のため確認してまいります」と一言添えるだけで、相手の受け取り方は驚くほど違うのです。

 

このような小さなひと言は、顧客の不満をやわらげ、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント)」と呼ばれる状況を未然に防ぐことにもつながります。

 

「できません」と言う前にできること

 

公的機関の窓口や店舗でもよく見られる光景ですが、ルールを盾にして「できません」と一点張りする対応ほど、相手の怒りを買うものはありません。

 

もちろん「できないものはできない」。それ自体は正しい判断です。しかし、特に若い担当者などが厳しい口調で伝えてしまうと、相手は「冷たい」「突っぱねられた」と感じてしまうのです。

 

大切なのは、結果よりも姿勢

 

「無理を承知でお願いする」というお客様の気持ちに、どれだけ寄り添えるか。頭ごなしに断るのではなく、「念のため確認いたします」と一歩踏み込むだけで、印象はまるで変わります。

 

その一言が「あなたのために動こうとしている」というメッセージになるのです。心理学の研究でも、人は“結果”そのものよりも、“過程が公正かどうか”に満足を感じると言われています。
 

つまり、たとえ結果が同じ「できません」でも、そこに至るまでの“手続きの丁寧さ”や“確認の有無”が、信頼と納得を大きく左右するのです。

 

確認することの意味

 

確認とは、単なる事務作業ではありません。 「あなたの話を軽んじていません」という、誠実さの表現です。

 

確認を怠れば、信頼関係は築けません。むしろ、後にトラブルが発生した際に「やっぱり何もしてくれなかった」と責められてしまうことすらあります。

 

一方で、「確認してみます」と伝えたうえで丁寧に説明すれば、たとえ結果が同じでも納得を得やすい。つまり、確認という行為そのものが信頼を積み上げる行動なのです。

 

私が見てきた多くの職場でも、トラブルの芽は「できません」という言葉から生まれます。

 

けれども、よく観察してみると、お客様が怒っている理由は、本当は“できなかった”のではなく、“確認を怠った”ことが原因である場合がほとんどです。

 

信頼を生むのは「対応力」

 

営業の現場でも、この原理はまったく同じです。

 

冒頭のケースのように、たとえ値引きができないとわかっていても、「上司に確認してみます」と一言添えるだけで、顧客は「誠実な人だ」と感じてくれます。ここに信頼の種が生まれます。

 

また、聞かれた内容が曖昧なときや自信がないときも同様です。「念のため確認してからご連絡いたします」と答えられるスタッフは、自然と顧客との関係を深めていきます。

 

逆に、知ったかぶりをして曖昧に答えるスタッフほど、後で信頼を失う結果になります。

 

一見、手間に思える確認行為ですが、その積み重ねこそが「顧客との信頼残高」を増やすことにつながるのです。

 

カスハラ防止の本質は「信頼関係づくり」

 

東京都に始まり各地でカスタマーハラスメント防止条例が施行され、企業の対応が求められています。しかし、制度やマニュアルを整える前に、まず取り組むべきは現場での“確認”と“姿勢”です。

 

「できないことを伝える前に、できる限り確認する」。それだけで、カスハラに発展する確率は大きく下がります。

 

結局のところ、カスハラを防ぐ最大の対策は「信頼関係をつくること」です。信頼があれば、同じ“できません”でも角が立たない。

 

信頼がなければ、どんなに正しい対応でも不満が生まれる。

この違いを理解しておく必要があります。

 

組織文化としての「確認」

 

確認の姿勢は、個人のスキルではなく組織文化として根づかせる必要があります。

スタッフ一人ひとりが「できません」と即答する前に一呼吸置く。

 

「一度確認します」「念のため共有します」という習慣が組織全体に広がれば、顧客満足度も職場の雰囲気も大きく変わります。

 

こうした確認文化は、社員教育や日々のOJTの中で意識的に伝えることが重要です。

“確認のひと手間”が組織全体の信頼を守り、クレームを未然に防ぐ盾になるのです。

 

南澤自身の経験からも、確認を怠った一言が後に大きな誤解を生んだケースを何度も見てきました。

一方で、「一度上に確認します」というたった一言が、大きな信頼とリピートを生むこともありました。

 

「できない」とわかっていても確認する―――その意味を理解して行動するスタッフが多いほど、組織は強くなります。

 

貴社の現場では、「できません」と言う前に確認する習慣が根づいていますか?

そして、その姿勢を伝える文化はありますか?

著:南澤博史

 

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