
「南澤さん、マニュアルにないことが起きると、みんな動けなくなるんですよ…」ーーーこれは、ある製造業の経営者の言葉です。
定形業務は滞りなくこなせても、ひとたび想定外の事態が発生すると、現場が一気に止まってしまう。そんな光景は、どの職場にも少なからずあるのではないでしょうか。
マニュアルに記載のない出来事が起きると、人は思考を止めがちです。特に製造現場では、例外対応の多くがトラブルに起因します。
いわゆる「4M+E(Man:人、Machine:機械、Material:原材料、Method:方法、Environment:環境)」のいずれかに原因が潜んでいます。
理想的なのは、すべての事象に対してあらかじめマニュアルが用意されていることです。しかし現実には、発生しうるトラブルの切り口はあまりにも多く、すべてを想定しておくことは不可能に近い…。結果として、マニュアルにない事態が発生した途端、現場が混乱してしまうこともあります。
では、例外対応ができる人とそうでない人の違いはどこにあるのでしょうか。
それは、「考える力」と「実行する力」の差にあります。トラブルの本質を見抜くには、単なる対処ではなく、問題の“真因”を突き止める力が欠かせません。
「考える力」と「実行する力」。どちらか一方では不十分です。正しく考えても動かなければ成果は出ず、やみくもに動いても再現性はない。両輪を備えてこそ、真の例外対応力が生まれます。
表面的な原因にとらわれず、「なぜこれが起きたのか?」を掘り下げる力です。真因を誤れば、解決策も当然ずれてしまいます。
この“真因を見抜く力”こそ、考える力の核心です。思考が浅ければ、いくら行動しても同じ失敗を繰り返してしまうのです。加えて、正しい原因を見つけても、そこから適切な解決策を考え、実行に移せなければ意味がありません。
つまり、例外対応とは「真因の特定」「解決策の立案」「実行」の三段階すべてにおいて、高い思考力と行動力が求められるのです。
南澤が店長として現場を任されていた頃も、こうした例外対応には何度も直面しました。ある時は納車直前に車両の電子系トラブルが発生し、またある時は顧客の希望納期に間に合わない事態に陥る…。どちらもマニュアルには書かれていません。
その都度、スタッフと一緒に状況を整理し、何が本当の原因なのか、どうすれば再発を防げるのかを考え抜きました。こうした経験の積み重ねが、結果的に現場の判断力とチームの結束を強めていったのです。
言い換えれば、例外対応の力は、組織を「守る力」であると同時に「育てる力」でもあります。
例外対応はトラブル対応に限りません。営業や商談の場でも頻繁に起こります。たとえば、顧客から急な仕様変更や想定外の要望があった場合、マニュアル通りの対応では契約が成立しないことがあります。
そんな時に求められるのは、「この状況で最もお客様に喜ばれる対応は何か?」を即座に判断する力です。杓子定規な対応では、せっかくのチャンスを逃してしまうこともあります。
一方で、例外対応を個々人の経験や勘だけに頼るのは危険です。属人的な判断は再現性が低く、担当者が変わると同じ問題が再発する恐れがあります。だからこそ、現場で得た知見を組織として蓄積し、共有できる仕組みに変えることが欠かせません。
一度発生した例外を放置せず、「どのように対応し、どう解決したのか」を社内で共有すること。それこそが、“暗黙知を形式知化する”という組織学習の第一歩です。
そして、頻繁に起こる例外は、もはや「例外」ではありません。再発の多いトラブルは標準化し、次に同じことが起きた時には誰でも対応できるようにする。このサイクルを回すことで、組織は確実に強くなっていきます。
考えてみれば、例外対応こそが人と組織の真価を問われる瞬間です。決められた手順の中で動くことは、誰にでもできます。
けれども、決まっていないことに直面した時にどう動けるか。その違いが、組織の強さを分けるのです。改めて見直すと、例外対応は単なる処理ではなく、組織の成熟度を映し出す鏡でもあります。
古典『論語』には「過ちて改むるに憚ることなかれ」とあります。
この言葉が示すのは、誤りや想定外の出来事を恐れず、柔軟に改めていく姿勢こそが成長の糧となるということです。
例外対応は、まさにこの精神を実践する場です。ミスやトラブルを避けるのではなく、そこから学び、仕組みを強化していくことが重要なのです。そしてもう一歩踏み込めば、例外対応が多いほど、組織は進化のチャンスに恵まれているとも言えます。
予期せぬ出来事を“ピンチ”ではなく、“改良・進化のきっかけ”として捉えることで、現場の思考は確実に鍛えられます。マニュアル外の出来事こそ、成長の芽を見つけるチャンスなのです。
例外対応を前提に組織を設計すれば、スタッフは自然と自律的に動けるようになります。例外に強い組織は、どんな環境変化にも対応できる柔軟な組織です。そのためには、“例外を仕組みに変える”という発想が欠かせません。
貴社では、マニュアルにない事態が発生した時、どのように対応していますか?
そして、その経験を次に活かす仕組みの一歩は踏み出せているでしょうか。
著:南澤博史
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