
「南澤さん、休みを増やしたいのですが、これ以上営業日を減らすのも難しいのです」―――これは、あるサービス業の経営者との会話の中でいただいた言葉です。
休みを増やそうとすれば、営業日が減る。営業日を維持しようとすれば、従業員の負担が増える。一見すると、どちらかを選ばなければならない問題のように見えます。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
「休みを増やす=会社を休みにする」というのは、一見すると当たり前のようにも見えます。しかし、ここには一つ、分けて考えた方がよいことがあります。
それが、「個人の休日数」と「会社の営業日数」です。
従業員の休日を増やすことと、会社そのものを休みにすることは、本来、同じではありません。「休ませない」のではなく、「しっかり休みながら会社を止めない」という発想もできるのではないでしょうか。
もちろん、すべての業種・業界に当てはまる話ではありません。工場の生産ラインなど、一斉に稼働しなければ効率が大きく低下する仕事もあります。
一方、南澤の関わりが深い小売業やサービス業など、お客様との接点が重要な業種では、営業日を減らすことの影響をもう少し考える必要があります。
かつて、南澤が勤務した会社でも、夏季休暇を前半と後半に分け、交代で取得していた時代がありました。実際には、この時期は問い合わせや来店も比較的少なく、半分程度の人員でも十分に店舗を回せていた記憶があります。
例えば、全員が休むコアの休日を3日間とします。その前後に3日間ずつ交代で休暇をつなげれば、従業員は6日間の休みを確保しながら、会社としては前後の3日間を営業することができます。
もちろん、この方法が最適解だと言うつもりはありません。人員が半分になることで業務効率が著しく低下したり、お客様への対応品質が落ちたりするのであれば、かえって逆効果になります。
しかし、南澤自身の経験では、意外と回るものだという実感もありました。
一方で、困ったこともあります。担当者が休みに入ってしまうと、それまでの商談内容やお客様とのやり取りが分からず、残ったスタッフが対応に困ることがあったのです。
振り返ってみれば、問題は「人が少ないこと」だけではありませんでした。仕事や情報が特定の人に集中していたこと、つまり「属人化」していたことにも問題があったのです。
そもそも現在は、有給休暇の取得も当たり前になっています。研修や出張なども含めれば、全員が常に揃って仕事をしている職場の方が珍しいかもしれません。
そう考えると、大切なのは「何人休むか」だけではありません。「少ない人数でも、どこまで仕事を回せる組織になっているか」という視点です。
そこで重要になるのが「多能工化」です。
一つの仕事だけを担当する「単能工」は、人員を十分に確保できた時代には効率的な面もありました。しかし、人手不足が常態化した現在では、それだけでは柔軟な運営が難しくなっています。
例えば、星野リゾートは「マルチタスク」と呼ばれる多能工化でも知られています。フロントサービス、レストランサービス、客室清掃、調理など、一人が複数の仕事を担うことで、時間帯によって変化する繁閑に合わせ、人員を柔軟に配置しています。
この考え方は、宿泊業だけのものではありません。
電話を受けた人が簡単な問い合わせには答えられる。担当者が休みでも別の人が案件の進捗を確認できる。忙しい部門があれば、他の部門から応援に入ることができる。
反対に、「これは私の仕事ではない」「このお客様のことは担当者しか分からない」という仕事ばかりでは、一人休んだだけでも業務が止まってしまいます。
そこで、多能工化とともに必要になるのが「属人化の解消」です。
仕事の手順を見える化する。お客様とのやり取りを共有する。誰が見ても案件の進捗が分かるようにする。引き継ぎができる状態を日頃からつくっておく。
こうした取り組みは、休暇への対応だけではありません。突然の退職や病気、異動などによって人が離脱した場合のリスク分散にもつながります。
南澤は、多能工化や属人化の解消など、特定の人や場所に機能を集中させない考え方を、総称して「機能分散戦略」としています。
人手不足だからこそ、一人ひとりが複数の役割を担い、誰かがいなくても別の人が補完できる。そのような組織をつくることが、これからますます重要になると考えています。
そして、もう一つ忘れてはいけないのが「お客様」の視点です。
今まで何曜日に行っても開いていた飲食店が、火曜日定休になる。いつでも問い合わせができた会社が、特定の曜日にはつながらなくなる。修理をお願いしたいのに、長期休暇でしばらく対応してもらえない。
企業側にはそれぞれ事情があります。しかし、お客様から見れば、営業日が一日減るということは、接点が一日減るということでもあります。
もちろん、営業日を増やせば必ず売上が増えるという単純な話ではありません。しかし、お客様との接点を維持することは、将来の売上機会を失わないことにもつながります。
ここで、三つの視点から考えてみます。
従業員にとっては、しっかり休める。お客様にとっては、利用できる日が減らず、利便性が高まる。そして企業にとっては、稼働日を維持することで、顧客接点や売上機会を失いにくくなる。
「従業員満足」と「顧客利便性」のどちらかを選ぶのではなく、企業にとっての生産性や収益機会も含め、この三つをどう両立させるかを考えることが重要なのです。
もちろん、交代で休めば、従業員同士が顔を合わせる時間が減るという問題も生まれます。
しかし、それを補うために情報共有や引き継ぎを徹底すれば、むしろ仕事の見える化が進みます。「あの人にしか分からない仕事」を減らすきっかけにもなるでしょう。
つまり、これは単なる「休日の決め方」の話ではありません。
少ない人数でも仕事が回るように多能工化を進め、属人化を解消し、情報を共有する。そして、従業員がしっかり休みながら、お客様との接点も維持する。
これは、人手不足時代の「組織設計」の話なのです。
南澤は、無理に営業日を増やすべきだと言っているわけではありません。全員で一斉に休むことが合理的な会社も当然あります。
重要なのは、「今までそうしてきたから」という理由だけで休み方を決めるのではなく、従業員、お客様、業務効率、収益機会、組織体制など、複数の視点から改めて考えてみることです。
人手不足だから営業日を減らすのではなく、人手不足だからこそ、少ない人数でも回る組織をつくる。
その発想の転換が、従業員満足と顧客利便性を両立し、結果として企業の生産性を高めることにもつながるのではないでしょうか。
貴社では、「従業員を休ませること」と「会社を休ませること」を同じものとして考えてはいませんか?
人手不足の時代だからこそ、従業員がしっかり休みながら、お客様との接点を維持し、顧客の利便性・満足度を高められる仕組みや体制を整えていますか?
著:南澤博史
