
「南澤さん、毎日忙しく仕事をしていると、目の前のことをこなすだけで一日が終わってしまいます。考える時間って、どうやってつくればいいのでしょうか?」―――これは、ある企業の管理職との会話の中でいただいた言葉です。
仕事ができる人ほど忙しくなります。しかし、忙しくなればなるほど、実は失われやすいものがあります。それが、「立ち止まって考える時間」です。
次々と仕事が集まり、部下から相談され、会議に出席し、顧客対応も行う。気がつけば一日が終わっていた、という管理職は少なくありません。
目の前の仕事をこなすことは、もちろん大切です。日々の業務が滞ってしまえば、チーム運営にも支障をきたします。
では、考える時間がなくなると、何が起きるのでしょうか。
管理職であれば、チームの方向性、施策の決定、メンバーの入れ替えに伴う顧客の割り振り、部下の育成計画など、日常的にさまざまな判断や決断を求められます。
経営者であれば、人材採用、設備投資、新規事業、事業計画、場合によっては事業構造そのものを見直さなければなりません。
こうした重要な決断ほど、簡単に答えを出すことはできません。
顧客にとってどうなのか。従業員にとってどうなのか。会社にとってどうなのか。短期的には正しくても、中長期的にはどうなのか。さまざまな方向、角度から物事を捉え、最後は自分自身で決める必要があります。
そこで力を発揮するのが、日頃から「なぜ?」と考える習慣です。
「なぜ、この仕事をするのか?」
「なぜ、この方法なのか?」
「なぜ、この数字になったのか?」
「なぜ、このお客様は購入してくださったのか?」
「なぜ、このスタッフは成果が出ないのか?」
こうした小さな「なぜ?」を繰り返していると、少しずつ自分なりの答えができてきます。
もちろん、最初から正しい答えが出るとは限りません。後になって「自分の考えは違っていた」と気づくこともあります。
それでもいいのです。
重要なのは、その時点で「自分はこう考える」という答えを持つことです。そして実際の結果と照らし合わせ、違っていれば修正する。それを繰り返すことで、自分なりの答えが蓄積され、やがて判断軸になっていきます。
南澤自身、営業時代から「考えるための時間」を意識的につくっていました。その一つが、毎日の行動計画です。
毎日計画を立てていたのは、会社から「やりなさい」と言われていたからではありません。計画を立てずに仕事を始めた方が、結果としてムダな時間が増え、成果も出にくくなることを自分自身が認識していたからです。
一見すると、計画を立てる時間は仕事を止めているように見えます。その時間があれば、一件でも多くお客様に電話をしたり、訪問したりした方が効率的に思えるかもしれません。
しかし、実際には逆でした。
今日は誰に連絡するのか。どのお客様を訪問するのか。何を優先するのか。どこまで進めるのか。
つまり、毎日の計画を立てることは、「今日はどう動くべきか」という自分なりの答えを出すことでもありました。
先に考えてから動いた方がムダな動きが減り、結果として仕事は速く進みます。そして、成果にもつながりやすくなりました。
これは、日々の判断についても同じではないでしょうか。
考えることには、大きく二つの意味があると南澤は考えています。
一つは、「正しい判断をするため」です。
もう一つは、「判断を速くするため」です。
一見すると、立ち止まって考えることは仕事のスピードを遅くするように感じます。しかし、日頃から考え、自分なりの判断軸を持っている人は、似たような状況に直面した時にゼロから考える必要がありません。
「この場合は何を優先すべきか」「何を基準に判断すべきか」という軸があるため、判断が速くなるのです。
反対に、考える習慣がない人は、その都度迷います。判断の基準がないため、情報を集め、周囲に意見を求め、一つひとつの判断に時間がかかります。
「忙しいから、考える時間がない」と思っている人は少なくありません。
しかし、本当にそうでしょうか。
実は、「考えないから、いつまでも判断に時間がかかり、忙しさから抜け出せない」という逆の構造もあるのです。
これは、計画だけの話ではありません。
忙しいから部下を育成する時間がない。しかし、育成しないから、いつまでも上司に仕事が集中する。
忙しいから業務改善をする時間がない。しかし、改善しないから、非効率な仕事がいつまでも残り続ける。
計画、思考、人材育成、業務改善。一見すると違う話に見えますが、そこには共通する構造があります。
「今の時間を惜しむことで、未来の時間を失っている」ということです。
だからこそ、「立ち止まって考える時間」は、単に時間を使う行為ではありません。将来のムダな時間を減らし、より重要な仕事に使える時間を生み出すための行為でもあるのです。
そして、考える習慣がないことには、もう一つの危険があります。
「今までこうしてきたから」
「前回もうまくいったから」
「他社もやっているから」
こうした理由だけで判断することが増えていきます。
経験そのものが悪いわけではありません。しかし、「なぜ今もそれが正しいのか」を考えなくなった瞬間、経験は判断材料ではなく、思い込みに変わる可能性があります。
人材育成、営業方法、会議の進め方、評価制度、顧客との関係づくり……。以前はうまくいっていた方法が、今も正しいとは限りません。
だからこそ、「本当にこれでいいのか?」「なぜ、このやり方なのか?」と立ち止まって考える必要があります。
そして、この習慣は個人だけの問題ではありません。
「なぜ?」「もっと良い方法はないか?」という問いが日常的に交わされる職場では、一人ひとりが自分なりの答えを持つようになります。
上司から答えを与えられるだけではなく、自分で考え、意見を持つ。そして、実践した結果からまた考え、必要であれば答えを修正する。その積み重ねが、個人だけでなく組織全体の判断力を高めていくのです。
考える時間は、仕事を止める時間ではありません。
むしろ、これからの仕事を速く、正しく進めるための時間です。
貴社には、「なぜ?」と立ち止まり、自分なりの答えを持って仕事をするスタッフがどれだけいますか?
そして経営者自身は、「忙しいから考えられない」のではなく、「考えないから忙しくなっていないか」と、自分自身の仕事を振り返ることができていますか?
著:南澤博史
