◆第151話:仕事が人を幸せにする理由 ~働く喜びはどこから生まれるのか~

 

「南澤さん、十分成功されている経営者ほど、なぜ新しい挑戦を続けるのでしょうか?」―――これは、ある若手経営者からいただいた質問です。

 

すでに十分すぎるほどの成功を収め、仕事から離れて、好きなことをしながらゆっくり過ごすこともできる。それにもかかわらず、もう一度ゼロから事業を立ち上げたり、新たな分野に挑戦したりする経営者は少なくありません。

 

若い方の中には、「そこまで頑張らなくてもよいのでは」「毎日好きなことをして暮らせばよいのに」と思う方もいらっしゃるでしょう。南澤も若い世代と話をしていると、そのような考え方を耳にすることがあります。

 

しかし、不思議なことに、南澤が独立してからお会いした本当に成功されている経営者ほど、「もう十分だから引退しよう」という発想にはなりません。

 

むしろ、「次は何をやろうか」「若い人を育てたい」「社会に恩返しをしたい」と、新たな挑戦そのものを楽しんでいます。

 

これは、なぜなのでしょうか。

 

おそらく、そのような経営者にとって、仕事は単なる収入を得る手段ではないからです。自分の能力を発揮し、誰かの役に立ち、社会とのつながりを実感する場になっています。

 

言い換えれば、成功したから仕事を続けているのではありません。仕事を通じて得られる喜びを知っているから、成功した後も挑戦を続けているのです。

 

これは、経営者に限った話ではありません。

 

同じ仕事をしていても、「やらされている」と感じる人と、「誰かの役に立っている」と感じる人がいます。この違いは、仕事への向き合い方だけでなく、人生そのものの充実感にも大きな影響を与えます。

 

南澤自身、若い頃は、やらされ感を持ちながら仕事をしていました。会社から言われたから訪問する。上司に叱られないように報告する。与えられた目標だから仕方なく追いかける。そのような状態では、当然のことながら成果も出ませんでした。

 

ところが、お客様に喜んでいただくことや、周りの人から感謝されることに仕事の喜びを感じるようになってから、仕事への向き合い方が変わりました。

 

目の前のお客様のために、何ができるのか。店舗の仲間が動きやすくなるために、自分に何ができるのか。それを考えて行動するようになると、仕事は「させられるもの」から「自分がしたいもの」へと変わっていったのです。

 

もちろん、初めからそのように考えられたわけではありません。お客様や先輩、上司との関わりの中で、少しずつ仕事の意味を教えていただいたのだと思います。

 

当時の南澤は、お客様や周りの人のために一生懸命働いているつもりでした。しかし、振り返ってみれば、それによって最も大きな幸福感を得ていたのは、南澤自身だったのかもしれません。

 

仕事から得られる喜びは、少なくとも三つの視点から整理できます。

 

一つ目は、お客様や周りの人から「感謝される喜び」です。感謝の言葉によって、自分の仕事が誰かの役に立っているという「貢献」を実感できます。それが、もっと喜んでいただきたいという気持ちにつながり、接客力や営業力を高めていきます。

 

二つ目は、「期待される喜び」です。「あなたならできる」「次もお願いしたい」という期待は、その人の可能性が認められている証しでもあります。期待に応えようとする過程で、これまで以上の力が引き出され、新しい能力も身につきます。

 

三つ目は、「頼りにされる喜び」です。自分が必要とされ、誰かの支えになっているという実感は、自分の存在価値を感じることにつながります。頼りにされることで責任感も生まれ、人はさらに成長していくのです。

 

貢献を実感すること、可能性を認められること、自分の存在価値を感じること。これらは、お金だけでは得ることのできない仕事の報酬です。

 

もちろん、「仕事は生活のため」と考える人もいます。価値観は人それぞれですから、その考え方を否定するべきではありません。

 

南澤も店長時代、仕事に対する価値観を一方的に押しつけることはやめました。一人ひとりの考え方を大切にしたいと思ったからです。

 

ただし、「生活のためだけに働く」という考え方を認めることと、それ以外の考え方を伝えないことは、まったく別の話です。

 

仕事には、収入以外にも得られるものがある。お客様から感謝される喜びがあり、仲間から頼られる喜びがあり、自分の成長を実感する喜びもある。そのことを繰り返し伝えるのは、上司や先輩の大切な役割です。

 

南澤は店長時代、すぐには伝わらなくても、根気強く何度も伝え続けました。一度話しただけで、それまでに培われた仕事観が変わることはないからです。

 

ただし、言葉で伝えるだけでは不十分です。

 

管理職が仕事への不満ばかり口にし、面倒な仕事を部下に押しつけながら、「仕事に喜びを持ちなさい」と伝えても、誰の心にも響きません。

 

反対に、管理職自身がお客様からの感謝を喜び、部下の成長を楽しみ、難しい仕事にも前向きに向き合っていれば、その姿勢はメンバーにも伝わります。

 

管理職の考え方、あり方、行動は、本人が思っている以上に、職場全体へ大きな影響を与えているのです。

 

もちろん、どのような仕事や職場でも、人が幸福感を得られるわけではありません。感謝されることもなく、期待や成長を実感する機会もなく、ただ指示された作業を繰り返すだけでは、仕事を通じて幸福感を得ることは難しいでしょう。

 

逆に、誰かの役に立ち、期待され、頼りにされ、自分自身の成長を実感できる職場では、仕事そのものが幸福につながりやすくなります。

 

働く喜びは、会社から一方的に与えられるものではありません。しかし、すべてを本人の意識の問題として片づけることもできません。

 

感謝を言葉にする。努力や成長を認める。仕事がお客様や社会にどのように役立っているのかを伝える。本人の能力に応じて仕事を任せ、期待を示す。そのような日々の関わりによって、働く喜びは少しずつ育っていきます。

 

そして、それが職場の当たり前になったとき、個人の意識は組織の文化へと変わります。仕事の意味を感じながら前向きに働く人が増えれば、仕事の品質、コスト、納期、そしてお客様への対応も良くなる可能性が高まります。

 

成功した経営者が新たな挑戦を続けるのも、仕事を通じて感謝され、期待され、社会とのつながりを感じる喜びを知っているからではないでしょうか。

 

仕事は、生活のためだけにあるものではありません。誰かの役に立ち、自分の成長を実感し、社会とのつながりを感じることで、人を幸せにする力を持っています。

 

その力を最初に体現し、社員に伝えていくのは、経営者や管理職の役割です。

 

貴社の経営者や管理職は、仕事を通じて得られる喜びを、自らの姿で社員に伝えていますか?

著:南澤博史