◆第150話:「判断する習慣」が成果を変える ~できる営業は、なぜ決断されるのか~

   

 「南澤さん、その場で契約まで持っていけるコツのようなものはあるのでしょうか?」―――これは、自動車販売店で営業研修を行っていた際、受講者からいただいた質問です。

 

営業の現場では、初回から商談を契約まで進められる人がいる一方で、いつも「検討します」で終わってしまう人がいました。

 

もちろん、即決をいただくためのコツはあります。その一つが、商談の流れを論理的に組み立てることです。お客様の要望を確認し、必要な情報を提供し、不安を一つずつ解消しながら、納得できる結論へ導いていく。商談には、そのような道筋が必要です。

 

そして、南澤が考えるもう一つの違い。それは、自分自身で判断する習慣を持っている人ほど、お客様の判断を後押しすることも上手いということです。

 

なぜ、自分自身で判断する習慣を持っていることが、お客様の判断を後押しすることになるのでしょうか?

 

その理由は、自ら判断する経験を重ねている人ほど、人が判断する時にどこで迷うのかを知っているからです。

 

何を基準に選べばよいのか。

どこまで情報を集めればよいのか。

何が最後の迷いになるのか…。

 

その過程を自分自身も経験しているからこそ、お客様がどこで立ち止まっているのかが見えてきます。

 

反対に、普段から判断を先送りしている人は、お客様にも「もう少し考えてください」「ご家族と相談してください」と言ってしまいがちです。

 

もちろん、それが必要な場面もあります。しかし、本当はその場で解消できる不安まで持ち帰らせてしまえば、お客様の迷いはさらに大きくなります。

 

成果を出す営業は、決して強引に契約を迫っているわけではありません。判断に必要な材料を揃え、お客様が納得して決められる状態をつくっているのです。

 

言い換えれば、「決断させる」のではなく、「決断できるようにする」のです。そして、結果的に決断されます。

 

例えば、お客様が車の色で迷っているとします。この時、「お好きな色を選んでください」と任せるだけでは、なかなか決められません。

 

白であれば、下取り時にも安定した需要があります。黒系の色と比べて夏場の車内温度が上がりにくく、視認性が高いため、統計上も事故リスクが低い傾向があります。埃が比較的目立ちにくい一方で、雨だれのような汚れは目立ちます。

 

黒であれば、高級感がある一方で、夏場は車内温度が上がりやすく、細かな傷や汚れが気になることもあります。明るい色であれば、広い駐車場でも自分の車を見つけやすいという利点もあるでしょう。

 

さらに、実際に購入したお客様の声を伝えたり、「吸い込まれるような透明感のあるブルーですね」と、その色ならではの魅力を表現したりすることもできます。その上で、家族構成や使用環境、お客様の好みを踏まえ、「お客様には、この色が合うと思います」と営業自身の考えを伝えるのです。

 

南澤自身も営業時代、お客様が色で迷われた時には、好みだけでなく、手入れのしやすさや下取り時の人気、ご家族の意見まで確認していました。

 

このように複数の視点から判断材料を提供すれば、お客様は自分なりの基準を持つことができます。費用、効果、使い勝手、緊急度、将来性、周囲の反応、時間軸など、判断にはさまざまな要素があるのです。

 

営業に求められるのは、情報をたくさん伝えることではありません。お客様にとって重要な視点を整理し、比較できる形で示すことです。

 

情報が増えすぎれば、かえって判断できなくなります。何を伝えるかと同時に、何を絞るかも重要になります。

 

車に詳しい営業が、必ずしも売れるわけではない理由がここにあります。重要なのは、持っている知識の量ではなく、その中からお客様の判断に必要な情報を選び、分かりやすく提供できるかどうかなのです。

 

では、そのような判断力は、どのように磨けばよいのでしょうか。

 

南澤は、日々の小さなことから、意図的に判断する習慣を身につけることが有効だと考えています。

 

飲食店に入ったら、必要以上に迷わず、自分なりの基準で注文する。洋服やスーツを買う時も、何を重視するのかを考えて選ぶ。仕事でも、重要度の低いことまで上司に判断を委ねず、まずは自分の考えを持つ。

 

一見すると、スピードを重視しているように思えるかもしれません。しかし、大切なのは、単に速く決めることではありません。自分なりの基準を持って意図的に判断し、その結果を振り返ることです。

 

もちろん、時には失敗もあります。「隣の人が注文した料理の方がおいしそうだった」「もう一つの色の服にすればよかった」と思うこともあるでしょう。しかし、日常の小さな判断で生じる損失は、それほど大きなものではありません。

 

むしろ、自分で決め、その結果を振り返ることで、何を基準に考えればよいのかが少しずつ明確になります。この経験を重ねることで迷う時間が減り、判断の精度が高まるとともに、結果として判断そのものも速くなっていくのです。

 

つまり、判断が速いから、判断する習慣が身につくのではありません。意図的に判断する習慣を身につけた結果として、判断が速くなるのです。

 

判断力とは、最初から正解を当てる能力ではありません。限られた情報の中で一度方向を定めて、結果を見ながら軌道修正をしていく力です。この経験を重ねるからこそ、判断の精度も少しずつ高まっていきます。

 

一方で、すべてを即断即決すればよいわけではありません。大きな金額が動く投資、人事に関わる決定、会社の将来を左右する選択には、慎重な検討が必要です。

 

重要なのは、「速く決めること」と「時間をかけて考えること」を区別することです。

 

決断の速い人は、何でも直感だけで決めているのではありません。すぐに決められることはすぐに決め、本当に重要なことに考える時間を振り向けています。

 

これは、営業個人だけの問題ではありません。上司の顔色を見なければ何も決められない組織、失敗すると強く責められる職場、判断基準が共有されていない会社では、従業員の判断力は育ちません。

 

権限移譲が行われている組織であれば、メンバーが自ら判断する機会も必然的に増えます。反対に、その都度、本社や上司にお伺いを立てなければならない組織では、判断する経験を積むことができず、判断力も身につきにくいのが実情です。

 

南澤も店長時代、メンバーにある程度の裁量を持たせることで、判断力が高まっていくことを実感していました。例えば、「この金額までであれば、自分の判断で値引きをしてよい」と範囲を明確にして任せることです。

 

もちろん、単に「自由に判断してよい」と任せるだけではいけません。経営者や管理職には、判断を任せる範囲を明確にし、必要な情報と判断基準を共有することが求められます。

 

そして、判断した結果だけでなく、「どのような理由でそう判断したのか」を振り返る機会をつくることも重要です。たとえ判断が間違っていたとしても、その理由を振り返ることで、次の判断の精度を高めることができます。

 

メンバーに判断を任せることは、経営者や管理職の負担を軽減することにもつながります。経営者が本来時間を費やすべきなのは、会社の未来を左右する方向性を決めるような、重要な決断です。

 

日々の細かな判断に時間を奪われていては、そのための時間を確保できません。現場が自ら判断できる組織をつくることは、人材育成だけでなく、経営者が経営に集中するためにも必要なのです。

 

日々の小さな決断が人の判断力を育て、その判断力がお客様の決断を支えます。さらに、一人ひとりが自ら判断できるようになれば、チーム・組織全体の動きも活発になります。

 

つまり、「判断する習慣」は、営業成果だけでなく、チーム・組織の生産性や成長速度まで変えていくのです。

 

貴社では、従業員が自ら判断し、その判断力を磨いていける仕組みと文化をつくっていますか?

著:南澤博史