◆第149話:「自立」と「自律」の違い ~伸びる人が身につけている二つの「じ・り・つ」~

 

「南澤さん、若手社員には『早く自立しなさい』と伝えていますが、本当に教えなければならないのは『自律』ではないでしょうか?」―――これは、若手社員の育成に力を入れているサービス業の人事部長との会話の中でいただいた相談です。

 

現場では、「早く一人前に」「人に頼らずに仕事ができるようになりなさい」といった言葉が日常的に使われています。確かに、自分で考え、自分で判断し、自分で行動できるようになることは、社会人として非常に重要です。

 

しかし、ここには一つ見落とされがちな違いがあります。実は、同じ「じりつ」でも、この二つはまったく意味が異なるのです。

 

一般的に「自立」とは、他者に依存せず、自分の力で立つことです。一方、「自律」とは、自分自身をコントロールし、自らを律することを意味します。

 

仕事で成果を出し続ける人は、この二つをどちらも身につけています。しかし、若手育成の現場では、「自立」は教えていても、「自律」を十分に教えられていないケースが少なくありません。

 

ここで重要なのは、この二つは育て方そのものが違うということです。

 

自立は外側の能力です。

 

仕事の知識や技術、判断軸を身につけることで育まれます。そのため、先輩や上司が仕事を教えることで比較的育成しやすい能力と言えるでしょう。

 

一方で、自律は内側の能力です。

 

自分自身の思考や感情をコントロールし、自らを律する力であり、一朝一夕で身につくものではありません。

 

仕事をしていれば、自分にとって嫌なことを言われる場面は数え切れないほどあります。顧客から厳しいご意見やクレームをいただくこともありますし、上司から指摘を受けることもあります。同僚や他部署との考え方の違いに悩むこともあるでしょう。

 

そのような時に感情に任せて反応するのか、それとも一度立ち止まり冷静に受け止めるのか。ここに「自律」の力が表れます。

 

また、自律とは感情だけではありません。睡眠、食事、飲酒、運動、時間管理など、自分自身をベストな状態に保つための自己管理も含まれます。毎日安定して成果を出し続ける人ほど、自分自身を律する習慣を持っています。

 

南澤自身も店長時代、多くのスタッフを育成してきました。最初は「一人で仕事ができるようになれば一人前だ」と考えていました。

 

しかし実際には、一人で仕事ができても成果が安定しないスタッフは少なくありませんでした。

 

一方で、多少経験が浅くても、自分自身を律する力を身につけているスタッフは、時間とともに着実に成長していきました。

 

南澤が特に大切にしていたのは、メンバーがお客様から厳しいご意見やクレームをいただいた時の関わり方です。

 

クレームの内容だけを振り返るのではありません。

 

「今回の出来事をどう受け止めるのか?」

「この経験を次にどう活かすのか?」

「お客様は本当は何を訴えたかったのだろうか?」

 

このような問いを投げかけながら、一緒に物事の捉え方や考え方を整理するよう心掛けていました。

 

同じ出来事でも、「理不尽なお客様だった」で終わる人もいれば、「自分自身を成長させてくれる機会だった」と捉える人もいます。

 

この小さな捉え方の違いが、数年後には大きな成長の差となって表れてきます。

 

心理学者キャロル・ドゥエックが提唱した「マインドセット」の考え方では、人は固定的な「硬直マインドセット」と、成長的な「しなやかマインドセット」の二つに大きく分けられます。

 

しなやかマインドセットを持つ人は、失敗や厳しい指摘を成長の機会として受け止めます。一方で、硬直マインドセットでは、自分を守ろうとする意識が強くなり、感情に振り回されやすくなります。

 

つまり、自律とは、自分自身の思考のパターンを少しずつ変えていく営みでもあるのです。

 

しかし、この思考習慣は簡単には変わりません。だからこそ、日々の経験を積み重ねながら、適切な指導によって少しずつ育てていく必要があります。

 

ここで育成の大きな落とし穴があります。

多くの会社では、仕事のやり方は教えています。しかし、自分自身を律する方法までは教えていません。

 

スポーツや芸事の世界では、技術だけではなく、心の持ち方や生活習慣まで含めて指導されます。自分自身を律することも、上達するために必要な能力として当然のように教えられています。

 

ところが企業では、仕事の知識や技術を教えることに重点が置かれ、自律を育てる教育は本人任せになっていることが少なくありません。

 

しかし、自律は本人だけの問題ではありません。管理職の関わり方、日々の声掛け、振り返りの機会、そして何より、安心して失敗や悩みを話せる信頼関係があってこそ育まれていきます。

 

自分の弱さや失敗を安心して話せる職場では、人は素直に学び、自らを律することができます。反対に、失敗を隠す文化では、自分を守ることが優先され、本当の意味での成長は生まれません。

 

だからこそ、自律できる人材を育てるためには、信頼関係を土台とした組織文化が欠かせません。そして、そのような文化は偶然生まれるものではなく、日々のマネジメントや仕組みによって醸成されるものです。

 

こうして見てくると、自立と自律は、どちらか一方だけでは十分ではないことが分かります。

 

自立していても、自律できなければ感情に振り回され、安定した成果を出し続けることは難しくなります。

 

反対に、自律できていても、自立できなければ、自分で判断し、主体的に行動することはできません。

 

この二つは、まさに車の両輪なのです。

 

そして、近年よく耳にする「主体性」とは、この二つが備わって初めて発揮されるものではないでしょうか。

 

仕事を教える会社は多くあります。しかし、自分自身を律する方法まで教えている会社は決して多くありません。

 

だからこそ、自律できる人材は偶然育つものではありません。

組織として意識的に育てていく必要があるのです。

 

貴社では、「自立」と「自律」の違いを意識した育成を行っていますか。

そして、二つの「じりつ」を育てる仕組みと文化は整っているでしょうか。

 著:南澤博史

 

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